241人が本棚に入れています
本棚に追加
次の瞬間、鬼崎は店のなかにいた男と目が合った。男が、驚きの表情とともにこちらを指さした。男は奥まった眼光を大きく見開くと、店の外まで聞こえてきそうな大きな声で「龍昇か!」と叫んだ。
鬼崎は一瞬たじろいだが、店内にいた男は慌てふためいて外に飛び出してきた。
「龍昇か? おまえ、龍昇だろ?」
痩せぎすで、一見、不愛想にみえる男は明らかに興奮していた。
「あ、ああ……。お、おまえ……神林?」
その声を聞くや、神林と呼ばれた男は飛び上がらんばかりに狂喜した。神林は鬼崎の現前まで駆け寄ると鬼崎の両手を握った。
「ああ、やっぱ、龍昇かぁ! 久しぶりだな、いったい何年ぶりになるよ?」
「何年……? 高校を卒業して以来だから、10年ぶりだよ」
「10年! そっかー、それ以来か。いやあ、俺は大学からこっちだからさ。おまえはいつ東京にきたの?」
「あ、ああ、俺は、大学は秋田だからさ。就職を機に上京したんだ……」
「なんだよー、そうなのかよー! なんだー、じゃあ6年も前から同じ東京にいたんだな!」
神林の紅潮する頬を見つめながら、鬼崎は改めて神林和馬のことを思い返していた。
最初のコメントを投稿しよう!