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「いやー、本当に久しぶりだな。いま俺、とてつもなく感動してるよー」
神林の奥まった瞳が、喜びに満ちている。
「ああ、うん。俺も本当にびっくりしたよ……」
「よし、龍昇、いまから晩飯でも食いにいこうぜ。募る話もあるしさ」
「ああ、うん。べつに大丈夫だけど……」
そのとき、鬼崎の視界にクリーニング店のカウンターからふたりを凝視している女性の姿が映った。女性は胸に小さな赤ん坊を抱いている。神林は後方から放たれる鋭い視線に無意識的に感づいたようだった。
後ろを振り返った神林は
「やっべー。あれ俺の嫁さんなんだ。それから、あの赤ちゃん、俺の長女なんだ。……まずいな……実にまずい。実はこの店、嫁の実家なんだ。つまりは俺、入り婿ってわけよ。いまの苗字は立花っていうんだ」と早口にまくしたてた。
ふたりを睨みつける神林の細君が、ついに店から通りにでてきた。
「パパー、立て込んでいるところ申し訳ないんだけど、すみちゃんをちょっとのあいだ見ててほしいんだけど」
神林は、小さく舌打ちすると細君を振り返り、満面の笑みを形成した。
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