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鬼崎はSilver Moonの前でしばらく逡巡していた。彼のことを覚えているという優紀、彼女は鬼崎の幼馴染だった。幼稚園のころ、ふたりは、それぞれの母親とともに登園していた。
優紀はいつも鬼崎と手をつなぎたがった。鬼崎はただ照れるだけで、なんとなく優紀の手を振り払っていた。
優紀は天真爛漫で無邪気な女の子だった。当時の鬼崎に詳しいことはなにも分からなかったが、どうやら優紀には父親がいないようだった。
一緒に近くの小学校に入学した。鬼崎と優紀は低学年のころまで、一緒に登校していた。そのときになってもなぜか優紀は鬼崎と手をつなぎたがった。鬼崎はただ事務的に「やめろよ、はずかしいよ……」とボソボソと呟き、優紀の手を振り払った。
「りゅうちゃんは私のこと嫌いなの?」
あるとき、優紀は鬼崎を睨みつけた。その表情は悲しみに溢れていた。度肝を抜かれた鬼崎はニコリともせず、こう応えた。
「……嫌いじゃないよ。でも、クラスのみんなが茶化すから嫌なんだ……」
「ふーん、じゃあ、学校の近くになったら手を離せばいいんじゃない?」
屈託なく笑う優紀、しかし、鬼崎が彼女の期待に応えることはついになかった。
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