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鬼崎が首をひねっていると神林が云った。
「優紀ちゃんは龍昇のこと知ってるって云ってたぜ。もう何回か呑みに行ってるんだけどさ、同郷の子なんでいろいろと盛り上がっちゃってさ。それで中学どこよ、って訊いてみたら、おまえと同じだったの。おまえ、坂城中学だろ? だから、鬼崎龍昇ってやつ知ってるか、って訊いたら、『知ってる』って云ってたんだ」
すぐには思い出せなかった。しかし、鬼崎は優紀という名前に、もちろん聞き覚えがあった。
「まあ、いいや。おまえ暇なんだったら、ちょっと店、覗いてやれよ。小さなバーだけど入り口の壁が青く塗られてるからすぐにわかるよ。Silver Moonね。ちょっとだけでいいから寄ってやってくれよ」
鬼崎は「……ああ、うん。……多分ね」と静かに反応した。
「なんだよ、おまえ、つれない反応だな。とにかく一杯だけでもいいから、ちょっと寄ってやってくれよな。ああ、それからさ……」
神林はズボンのポケットから一枚のカードを取り出した。いまさっき、漆原智美から手渡されたのと同じ色、同じ大きさのカードだった。
「これ、おまえに渡しておくよ」
「えっ……カード……?」
鬼崎は本能的にその黒いカードを受け取った。
「じゃあな、龍昇、明日の8時、忘れるなよ」
神林は大きく頷くと、続いて鬼崎の双眸を見据えて云った。
「おまえがいてくれたお陰で、俺の高校生活はなんとか楽しいものになったよ。お互いイケてないふたりだったけど、おまえと過ごした3年間はいい思い出だ。ありがとうな……龍昇」
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