何処かおかしい4人の自己紹介(プロローグ)

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何処かおかしい4人の自己紹介(プロローグ)

※注意。この物語は4人の登場人物を中心に進行します。また4人の誰か視点か、三人称視点で描写されます。 ◆ 私立一葉学園高等学校の女子生徒、的場小雪(まとばこゆき)はストーカーである。 裕福な生まれで家は名家。兄弟は5人でいずれも小雪と同様に親に将来を決められている身だ。 この世界において火を出す水の上を歩く、空を飛ぶと行った超能力というものは身近であるが、的場家が代々排出する時間系能力は大変希少である。 姉は短距離転移者(テレポーター)。短い区間の空間を繋ぎ移動する能力者。 兄は存在不確定(パラドックス)。自分の存在を消したり表したりできるまだ未解明の希少能力者。 そして……的場小雪は未来予知者である。 自分の未来や触れた人間の未来を知ることが出来る能力者だ。 彼女が未熟なのかそれとも未知の領域の能力であるのか関係ない未来の記憶を夢としてみることもあった。 的場家の子供たちは5人だ。長女、次男、末っ子の3人が的場の血を強く受け継ぎ、長男と次女はありふれた一般的な能力を持って生まれた。 優れて希少な能力を持つ子供が二人もいた的場夫妻にとってできすぎてしまった子供である三女の小雪は稼業に付き合わせず自由にしてやってもいいと思っていたが、未来予知なんていうほとんど例を見ない力を持って生まれたらなば話は違うと自由を与えられることはなかった。 彼女にとって不幸だったのは希少な能力を持って生まれたことではない。 力には義務が伴うというが、普通であればそれ相応の環境も手に入れられただろう。 しかし、世界で多くの人間が信仰しているという地球創生の神にして超能力の開祖ではなく、"月人様"なる怪しい神様を祀るカルト教団の一門に生まれてしまったことが悲劇といえよう。まだ幹部であったのなら良かった。しかし的場小雪に与えられた席は巫女である。 『未来予知という力を用いて月人様を復活させる!』と意気込む両親に彼女は肝を冷やした。なんせ復活である。ゲームでも物語でも復活するような必要がある神は邪神だというのが相場である。 巫女というのだから、未来の"邪神"復活に協力(強制)し、復活したのちには邪神から有り難いお言葉を聞き信者たちにつたえるのだろう。 "考えるだけで頭おかしくなるで"と関西弁が出てしまいそうなくらい彼女にとって逃げられないくらい、がらんじめにされた状況がストレスだった。 そんなおり、彼女は進学先の高校で見つけたのだ。自分よりも不幸そうな人間を。 最初は哀れなその人間をみて自分より下がいるのだと満足していた。 しかし、その人間は諦めなかった。誰の手を借りなかったわけではない。多くと関わり粘り負けず進んだ。 その姿を見ているうちに自分よりも"下"なのに、努力なんて意味がないというのに、努力をする。罵倒雑言に負けず裏切りにも屈しず、一人で負けそうならば協力を試みてそれを打ち破る。そんな姿が彼女の心をかき乱した。まるで物語の主人公のような馬鹿みたいに頑張れるそんな姿に。それは自分にないものだと何もかもに憧れ嫉妬したのだ。 親の定めた未来に屈し、巫女という立場に一刻また一刻と迫る置かれるのを未来に怯える日々。誰も頼らず一人で悩みただ食事と排泄。起きてねる。一番嫌だと思っていた。それをくり返す下らない人生を許容していたのだと気づいた。 そして気づいた。全てを改善するのが無理でも小さなことから変えて行けることを。 彼女は聞きたかった。どうして貴方はそんなに頑張れるのですか?と。彼女は知りたかった、ここでは見れない彼の努力を。彼女は収めたかった。笑う顔、努力する顔。優しい顔。……泣く顔。それから苦痛に滲む顔。 彼女はみるだけでは足りなくなった。彼が欲しい。となりにいて欲しい。 手を繋ぎたい。彼と暮らしたい。親しくなって彼と共有したい。 ヤンデレ……という言葉が浮かんで来そうだが的場小雪という少女は何処か精神的に歪んでいるだとか、猟奇的な趣味があるわけではない。ストレスから解放された反動というやつだ。 ダイエットで痩せた肥満者がダイエットをやめてすぐ太るリバウンドというものがあるだろう。そんな感じだ。 彼女は少し興奮しすぎていた。 『好きな相手を知るために近づきたいけど、恥ずかしくて話しかけられないし、だけど近くをうろついていたら変な目で見られるかもしれないから、相手にわからないくらい遠くから観察しよう』 彼女の動機は5行にまとめればこんなものだ。ただちょっと行きすぎていただけ。 例えば、気になる女の人がいつも仕事の行き帰りでバスで一緒になって目で追っていたが、彼女のことが気になり何処に住んでいるのか知るために後ろをつけ、1日を確認しますます魅了されてしまい、いてもたってもいられなくなって襲いかかり性犯罪者として逮捕される……という流れに似ている。 捕まってから俺なんでこんなことを……と後悔するように、小雪もしばらくすれば熱も冷めるだろう。 まだ犯行に及ぶ一歩手前というところだろう。 彼女はストーカーなぞしているつもりはないのだが、結論を言えば人はいや……世はこれをストーカーと呼ぶ。 つけられている被害者は『俺、最近誰かにつけられている気がする……厨二病とかじゃなくてマジで』と薄々気づいていた。 相談を受けた被害者の友人は誰がつけているのかまで理解していた。 未来予知ができる的場にとって全てが予定調和……であるはずなのだがいかんせん本人が能力に頼りすぎているのであった。たとえ確定した未来であろうとその未来を知った人間が本来存在する世界での行動と違う動きをすれば未来も変わってくるというのをちょっとも考えなかったのか、あまりにも詰めが甘かった。 もっとも本人はバレていないと錯覚していたようであるが。 言うなれば、trpgで隠れるの技能判定に失敗して隠れたつもりになっているキャラクターくらい間抜けだ。 "計画通り"……言う人間によってこれほど変わってくるものとは言語というのは奥深い。 友人は包み隠さず被害者に的場小雪がストーカーをしているのだと暴露したものだから翌日から彼女を見る目は冷たくなった。 まあ、しかしストーカーを本人はしているつもりはないのだから悪質だ。 だいたい迷惑行為というものは故意でやる方が悪質に思えるが、無意識や認識のずれによって本人の悪気がない場合で起こる方が問題になる。 故意でやっている場合、注意されれば罪悪感や後ろめたさから、謝って来たり、認めずとも辞めたり、又は逆ギレや逃走があり得るだろうが、故意ではない場合、相手は何故注意を受けたのか分からないと言うような顔をして何も悪いことしてないのにキレてきたなどと周りに言って回るだろう。 それが人間関係の悪化や恨みに繋がり後々取り返しがつかなくなるものだ。 無意識なのだから注意された方もなんのこっちゃと気分が悪いが、それ以上に加害者に注意して被害者ずらされて泣かれたりなんかしたら被害者も気分が悪いだろう。 ましてや今回の相手は同級生の女子だ。ストーカーしやがってなど面から言って仕舞えば、すぐに泣くだろう。 そうなれば事情を知らない人間が偶々それを目撃した場合、被害者が女の子を泣かせたなんか悪いやつとして悪者扱いにされてしまう可能性だってある。 そんな無自覚ストーカーにつけまわされている男こそ世紀のトラブルメーカー西園寺宅戸(さいえんじたくと)である。 この男、火に群がる虫のように犯罪者や狂人が寄せ付けられるのだ。 火といえば、火つながりでこんな言葉がある。『火のないところに煙は立たぬ』 まあ、少年誌の探偵漫画の主人公のように大した理由もないのにいく先々で殺人事件が頻発するような悪霊体質みたいなものではない。 まあしかし、行く先々で殺人事件が起きているというのにそれに対しておかしくも思わず、まず謎解きを始めようとするような存在が現実にいるとすれば、異常性を確認後、某財団に収容しておいて欲しいものだ。 一方、西園寺であるが当たり前だがトラブルに巻き込まれる原因を理解していなかった。 無駄な努力や頑張りが癪に触ったと絡んでくる人間が多少いれど、凶悪犯罪者や会話が通じない狂人に襲われる心当たりはまったくない。 ごく普通の一般人である。 経歴は多少一般ではないものもあるが彼に優れた血が流れているだとか、すごい秘宝的な物体を所持しているだとかそんな夢に溢れた理由ではなかった。 一点、特異なことがあった。 それは彼が無能力だと言うことだ。 能力を持たない。すなわち無能力とはこの世界にとって極めて異常なことである。 超能力を持たない人間などいない。 いや、文献にはいくらか登場していたが歴史学者たちはどうせ伝説か無能力と見間違うほど貧弱だったのだろうと考えていた。しかし生まれたのだ。 何の能力も持たない無能力者が。 超能力者たちは恐れた。なんの力も持たない赤子を。ありもしない突拍子も無い悪意に満ちた噂はあっという間に広まった。曰く、無能力に近づくと超能力を奪われる。曰く、人間じゃなくて化け物が人間の姿をしてうまれた。 中には面白がって噂を流したものもいただろう。無能力者を生んだと言う理由だけで西園寺家から縁を断たれた彼の両親は引越しを余儀なくされた。 両親は愛を持って接しようとした。たとえ超能力を持たずとも自らの子供である。何しろ手に抱く赤子が化け物とは到底思えなかった。 噂はすでに引っ越した町にも広がっていた。不動産屋は噂の赤子を恐れながら万が一があっても問題ないあばら家を貸した。 窮屈な家だったが問題はなかった。 隙間風が身体の熱を奪ったが3人でより合えば暖かく幸せな気分になった。 だが無能力という異物に世間は優しくなかった。 血も涙もない超能力者が家に火を放ったのだ。彼らは逮捕末、無能力という異物が恐ろしくて同じ世界に存在するのが耐えきれなかったと語った。 家は全焼。一人は真っ黒で男女か判別出来ず、一人は全身から血を流した女の老人の死体が見つかった。その老人の腕の中から火傷を負った赤子が見つかった。 赤子は生きていた。 それが今の西園寺宅戸である。 宅戸の母親だったとみられる老婆は能力の使いすぎによる死因と判明した。 彼女がどんな能力であったのか今ではわからないが、無能力者は生きながらえた。 彼が生きて行く上でさまざまな試練が待ち受けていた。 無能力者を認めない社会の風潮や差別、彼に恐れをなし殺そうとする人間、それから貴重なサンプルとして誘拐しようとするもの。 どう見ても厄介ごとしかなく引き取り手も現れないと思われていた彼を引き取り育てた者こそ西園寺宅戸、彼の友人にして幼馴染の親である江花家であった。 当時、妻と離婚し二人の娘を育てることとなった江花一暁は、何を思ったか西園寺宅戸の引き取り手に名乗り出た。 長女の江花凛と次女の江花鵼の二人がいたが問題は起きなかった。 凛は二人とは年の離れていた。長女として自覚を持ち赤子をあやすなど父の負担を減らそうと子供ながらよく世話を焼いた。ごくありふれた氷を出し操る能力でキラキラとしたものを生み出し赤子をあやした。 次女の江花鵼であるが、彼女は西園寺宅戸とは少し違う意味で異常だった。見る人によって違う印象を受けるのだ。ある人は男だと言うしまたある人は女だと言う。父と宅戸は女に見えていたが姉や近所の人間には彼女が男に見えるようであった。 ところでこの世界には超能力鑑定士と呼ばれる人間達がいる。彼らは人の超能力がどんな能力か知るという感知・看破系の能力を使い主に生まれたばかりの子供の能力を鑑定している。 西園寺宅戸はこの時点でどの鑑定士にも超能力がないと判定され無能力者された。 江花鵼もこの鑑定を受けたが彼女の能力は誰にもわからなかった。ただ無能力と言われなかった理由は鑑定した本人たちから何かの能力だとは思うがさっぱりなんの能力かわからないという結果だった。 そう言う背景もあったのだろう。父、一暁が西園寺宅戸を受け入れたのも。彼女の母親は、何の能力かわからないと言った鑑定士に無能だと罵り、なんだかわからない不気味な能力者と暮らすのは御免だと薄情にも彼女を捨て離婚したのだ。 そんな背景からか不気味がられているという共通点もあることからか鵼と宅戸の中は良い。 非常に良いと言ったところか。 親友や幼馴染を通り越して父にお似合いだと言わせるくらいには二人はベッタリであった。 ちなみに嫁にするなら俺と勝負して勝ったら考えてやらなくもないなどと戯言を一暁はほざいていたが。無能力者である宅戸には逆立ちしても戦闘系超能力者の一暁に勝てはしないだろう。 西園寺宅戸は子供の頃は不気味がられたものだが、努力や勤勉さから彼を悪く言うものはだんだんと少なくなっていた。 それでも頭のおかしい人間に襲われるが高校に進学してからはそういうことも減っていた。 無能力がうつると心無いことをいう人間もいたが友達はたくさんいた。 その中でも魚崎レオとは親友と言っても差し与えないほどに気があう中だ。 魚崎レオとは高校に入ってからの友達で珍しくレオの方から宅戸に話しかけ仲良くなった例だ。 無能力だと言うことに公言して悪く言うものは少ないが噂や親の話から内心恐れている生徒もいた。だから大概は宅戸の方から話しかけていたが、レオはおもしれそうという理由で話しかけてきたらしい。 私立一葉学園高等学校に通う人間には問題が多い。魚崎レオもそんな家の人間だった。優秀だった彼は何故か知らんが魚崎とか言う分家に養子に出されたのだと友人になったあと『柊っつうとこからごく普通の家に養子に出された』と軽く話した彼に二人はその話を聞かなかったことにした。 柊とは皇族に身を連れる一族である。なんで、こんな田舎に養子に出されたんだとつい突っ込んでしまう二人に全く理由がわからないけど爺様に行けばわかるとか意味深なことを言われた話していた。 こんな重大な話を話してくれたわけであるからと包み隠さず二人は自らについて暴露しより3人の中は深まった。 それが高校2年の夏。しかし的場小雪がこの賑わいに参加することはなく翌年までストーカーを続けていたのであった
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