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「貴方、憑き物、落としますよ」
そんな胡散臭い言葉を掛けてきた男に付き纏われて一ヶ月。俺はとうとう我慢の限界がきて言ってしまったのだ。落とせるものなら落としてみろ、と。当然、憑き物など信じていない俺は男の「落としますよ」などという言葉に返事もしなかった。代金を要求もしないところがかえって空恐ろしく、いつも目の端に付いてくる男の姿に苛立ちを募らせていった。そうして、俺は男に手を掛けた。
「落としますよ、貴方」
「五月蝿い!勝手に落ちていろ!」
殺すつもりはなかった、とは言えないのかもしれない。兎に角男を自分の前から消したかった。俺は会社帰りの歩道橋から、男を突き落としてしまった。これで楽になれると思っていると、後ろから声を掛けられた。
「貴方、落としましたよ」
「私を」
ああ、俺に憑いていたのは、こいつ自身のことだった。
俺は確かに、憑き物を落としてしまったのだった。
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