運命の風 〜剣を持つ魔法使い 外伝〜

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 目だけで、沈黙の民は見送った。長い黒髪、艶めいた薄衣に包まれたたおやかな肢体が、ふと若い竜のように鍛え抜かれた戦士のそれと見えたのは、薄暮の見せた錯覚か。髪の色さえ、一瞬違って見えたのは------  沈黙の民はただ見送り、やがて剣を収めた。いつしか双眸から緋色は消え去り、さりとて元の淡いグレイというのでもなく、金と緑が溶け合ったような、不思議で美しい色を擁していた。それがどういう感情であるのか、自身以外には知る者もなく------  沈黙の民は再び遥かなる地平へと視線を戻す。あの、吟遊詩人と呼ぶにはあまりにも気や身のこなしの謎めいた若者の言葉を、戯れと見たか予知と聴いたか。彼はただ渡る風の声に耳を傾け、おのが行く手に思いを凝らす。  かの吟遊詩人とは無論再び邂逅を果たすのであるが、それはまだ長いのちのこと、またべつの話となる。                        “運命の風”
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