プロローグ

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プロローグ

「――だから言ったでしょ。死んじゃうって」  ジルはあきれながらも、アキラの傷を治療していく。 「うっさいわね、いいでしょ別に。死んでないんだし」  傷だらけの身体を大木にもたれさせながら、アキラはジルに文句を言う。 「……じゃあ、いっぺん死んでみる?」  ジルの口から物騒な言葉が出たと同時に、治療の手を止める彼女にアキラは慌てた。 「ちょっ、何やめてんのよ!?」 「アナタが生意気なコトばかり言うからでしょ。いつもいつも無茶ばっかりして。だいたいアキラは……」  治療の手を止めたままジルの説教がはじまったことに、本格的にヤバイと感じた。  ――このままじゃマジで死ぬ、と。 「ジル、ゴメン。あたしが悪かった。だから治療続けて下さい、お願いします」  懇願するアキラに説教モードになっていたジルは「あら? そう」と納得し、願い通り治療を再開した。  ――ったくコイツは。一つのコトに集中すると周りが見えなくなるんだから。  そんなジルと出逢ったのは半年前。  アキラがこの異界にきて、師匠らの元で修行をはじめて、ひと月ほど経った頃だ。  ――必死だった。とにかくこの世界で生きていく術を身に付けないと、ただのギャル女子高生の自分じゃ、こんな魔法やモンスター(だと思う)が存在する世界ではすぐにおっ死んでしまう。  だが、アキラはまだ運が良かった。  それは、異界で最初に出会ったのがモンスターなどではなく、賢者と腕の立つ剣士夫婦だったからだ。  アキラはダメ元でその夫婦に事情を説明した。自分はこの世界の人間ではないというコトを。できる限り簡潔に。説明を聞いた後、その夫婦が口にした言葉に、アキラは心底驚いた。 「ああ。アナタ『地球人』ね」  ※ 「――はい。治療おしまい」 「アリガトゴザイマス」 「何で片言?」 「別に。……おっ、痛くない。わっ、傷無くなってる」  切り傷、擦り傷だらけだった腕や足、打撲の痛みなどがキレイに消えていたコトに、アキラは感嘆の声を漏らした。 「ふふん。さすが私でしょ」  腰に手を当てわかりやすく胸を張るジルを、アキラは無言で見続ける。 「え? な、何」 「ジルってさ――完璧だよね」 「へ?」 「魔法は達者だし、頭良いし、背高くて美人だし……」  アキラのいきなりな褒め殺し文句にジルはとまどう。  ジルは、アキラがお世話になった師匠夫婦の娘である。アキラ一人で旅立たせるコトを心許ないと思った夫婦が、魔法に長けてる一人娘のジルを、彼女の旅のお供として遣わせたのだ。 「ついでに世界を見てこい!」と修行の一環も兼ねて。  ジルはアキラと同じ一六歳。魔法学校を主席で、しかも飛び級で卒業したばかりだった(本来卒業は十八歳らしい)。  長身で(一七○センチはあるだろ)、金髪のロングヘアーを後ろで束ねてる彼女を初めて見た時は、一瞬言葉を失った。  アキラは学生の傍ら、ファッション誌でモデルの仕事をしていた。母がデザイナー、兄が美容師というコトもあり、その方面に関心のあった彼女は、自らモデル事務所のオーディションを受け合格した。  仕事を始めて一年。幸運にも、念願の表紙を飾れるかもしれないというチャンスが訪れた日。所属事務所に向かう途中に起こった不運が今のアキラの現状だ。  そしてジルは、そんな仕事をしているアキラが見惚れるほどの容姿を持っている。  ジルに出逢った当初の自分は、ポンコツ魔法使いもいいとこだった。師匠にドヤされながらも、生来の負けず嫌いで何とか修行をやり遂げていた。そしてジルは、そんなあたしを時には笑顔で、時には笑顔でキレながら修行の相手をしてくれていた、いわば、第二の師匠といっても過言ではないかもしれない。 「ア、アキラが私を褒めるってめずらしいよね。どうしたの?」  いまだとまどってるジル。  こういうとこはホント可愛いと思う。  口にはしないけど。 「別に。ただ……」 「ただ?」  アキラは地面に置いていた自身のリュックを肩にかけ、目指す方向へと歩き出した。 「ちょっと、アキラ」  慌てて後を付いてくるジルに、アキラは続きの言葉を返した。 「ただ、感謝してるってコトよ」
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