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「アタシ『メリー』って言うの。お兄さんお名前は?」
「あ、いやその……」
ジルに迫っていた男は、今度は逆にメリーと名乗る旅芸人の男に迫られていた。
その隙に、ジルはその男から離れアキラの横に並んだ。
「お、俺が探していたのは女性のパートナーで……」
「それならピッタリじゃない。アタシ女性パートもOKよ!」
そう言ってOKポーズとウィンクを送るメリーにますますたじろぐその男は、
「あっ、あー! お、俺、きゅ、急用があったんだ。なので、し、失礼しますっ!」
そう言い残し猛ダッシュでギルドを出て行った。
「何よもう、つれないわねぇ……ん?」
不満げな呟きを漏らした後、メリーはアキラとジルに目を向ける。
「ひょっとしてアナタ達、ここ初めて?」
メリーの問いかけにアキラは「あたしは初めてですけど……」と答えた後、ジルに目をやる。
「私は何度か来させて頂いてます」
「うん。そんな感じね。そっちの子と違って、アナタ貫禄あるもの」
「か、貫禄――」
「……プッ」
「ちょ、ちょっとアキラ。何笑ってるの?」
メリーの言葉に噴き出すアキラは「ゴメンゴメン」と言いながらも笑いをこらえきれないでいる。そんなアキラに「アラ? でもそっちの子――」と近付いて来て、
「なっ!? ちょっ――」
メリーはアキラの頬に手を添えじっとその目を見つめる。
「ア、アキラっ!?」
ジルがそんな二人の様子に戸惑いの声を上げると、
「やあね。そんな大声出さなくても、取って喰ったりしないわよ」
そう言った後、メリーはあっさりアキラから離れた。
「……な、何なんですかっ! いきなり」
されたコトに抗議の声を上げるアキラに、メリーは「まあまあ」と落ち着いた様子で彼女を宥める。
「ちょっと気になったのよね。アキラって言ったっけ? アナタ――"ココ"の住人じゃないでしょ」
「えっ?」
「わ、私もアキラも、この土地の者じゃありません。私たちは――」
「あ、そういう意味じゃないの。何て言うのかしら。アナタ、"過去"のにおいがするのよね」
「へっ? 過去……?」
メリーの言葉の意味を理解できずにいるアキラはジルに目をやるが、首を横に振られる。
「あの……それ、どういう意味ですか?」
アキラの問いにメリーは、
「んーそうね。……ふふ、ゴメンナサイ。アタシも上手く説明できないわね。ま、美人旅芸人の戯れ言だと思って気にしないで頂戴。じゃあね」
メリーは二人に手を振り、ギルドの入口から左奥にある受付窓口へ颯爽と歩いて行った。
「……何だったんだろ? あの人」
「さあ。でも見て。あの人が受付している窓口――あそこで仕事を請けられるってコトは、かなりの上級者だよ」
ジルの言葉に「そうなの?」とアキラは聞き返す。
「うん。あ、そっか。アキラはギルドに来るの初めてだもんね」
「そりゃそうでしょ」
「ふふ、ゴメンゴメン。とりあえず初心者向けの受付窓口を……ってあった! ちゃんと看板出てたんだ」
「尋ねなくてもよかったわね」とバツ悪そうに舌を出し、ジルはアキラに目をやる。
「ま、いいんじゃない。それじゃ受付済ましちゃ――」
「ちょーっと待って! そこのお二人さん」
いきなり大声で呼び止められたアキラとジル。驚きながら声のした方へ振り返ると、
「そうアンタたちよ。ほら、いいからこっちへいらっしゃい!」
そう言って手招きするのは、さっきのイケメン旅芸人だった。
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