積極的

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積極的

 引越しが頭から吹っ飛んだのか、天外の態度は軟化した。甘えるように体を寄せ「文彰さん」とくすぐったい声を出すようになった。 「ねぇ、どこ行きたい?」 「……どこって?」 「新婚旅行。海外いいよね、冬だったらオーストラリアとか、南半球行くのはどう?」 「……国内で、いいかな」  三連休の最終日。昼食を食べてだらだらする時間、リビングは温かく、眠気を誘う気温だった。ラグに横たわっていた文彰に、天外が覆い被さってきた。 「じゃあ~、沖縄とか?いいね、宮古島でのんびりしよう」 「……天外、重いよ」  でかい図体で、文彰にのしかかる男はうっとりと目を細めていた。ずっとこの調子だった。文彰が「将来」と言ってから、天外はその通り、将来の話をする。これからの仕事のキャリア、結婚、人生プラン…… 『長い時間、過ごすんだからね、俺達』  手を握られて、指を絡ませるつなぎ方に、文彰は言葉を飲み込んだ。一時しのぎで出た言葉に、じわじわと首を絞められている錯覚がした。 「てん、がい、重いよっ」 「すきぃ……文彰さん」  べたりと、間延びした声がして、首に長い腕が巻き付く。血管が浮き出た硬い腕が、文彰には、蛇のようだった。太くて長い軟体生物に、巻き付かれて力を入れられる瞬間。多分、死ぬ――「将来」と言った日から、なぜかそんな妄想ばかりしていた。  妄想だ、幻覚だ。嘘に追い詰められて、一時、おかしくなっているだけ――そう言い聞かせているのに、天外の声、腕、脚全てが文彰に纏わりつく。 「文彰さん、ねぇー、ぇ」 「てんがい、おいっ」 「ねぇ……しよぉ――?」  覆い被されて、文彰には体を押し返すこともできなかった。老眼用の眼鏡がないと、手元がぼやけるせいで、簡単に手を振り回せない。ローテーブルに当たったら……テーブル、何、置いてたっけ?飲み物とか置いてた?  ぱっと思い出せない文彰は、天外に好き勝手されていた。部屋着のTシャツを捲り上げられ、下に手を突っ込まれる。  下着の上から無遠慮に股間を握られ、声が洩れた。 「おい、昼間だぞっ」 「やだ、好き。好き、文彰さん、したい……俺のこと、好き?」  年下の男は、餌をねだる雛のような顔をする。文彰は落ち着かせようと、返事の代わりにキスをした。 「ん……ふぁ、あ、ねぇ文彰、さんっ、好き?好き?俺のこと、好き?」 「好きだよ、好きだから。なぁ、昼間だぞ」 「やだ、文彰さんとやりたいよぉ……ね、しゃぶってよ、文彰さんの口まんこに入れたい」  発言さえなかったら、美しい男が苦悶した表情に、目を奪われる。美男子は、スウェットを盛り上げる股間を、年上の男に押し付けた。文彰はますます腰が重くなった。  昼間のリビングでセックス。気が進まない。天外とセックスするのが嫌とかではなくて、明るい場所を避けたかった。 「……服、脱ぎたくない」 「なんで?」 「嫌なんだよ。明るいし……脱ぎたくない」  セックスの時、自然とベッドの部屋を暗くしていた。裸になると「真摯な気持ち」を示したことがバレるのではと、文彰は内心、ハラハラしていた。  痕、付けられてないよな。  脱衣所で全身をチェックしたが、背中などはどうしても見えない。キスマークなど、あの怒り狂っていた会長が付けるわけないが、万が一――もし、寝た痕跡が残っていたら?天外の追及を考えたら、それだけで背筋が凍る。  文彰の内心を知ってか知らずか、天外は明るい声を出した。 「着衣セックス?だったらコスプレとかして欲しかった」  天外が立ち上がり、股間を文彰の顔に寄せる。何を求められているのか、瞬時に理解した男は――服は脱がずに済んだと、胸をなで下ろした。  年若い男の短パンをずり下げ、下着に頬擦りをする。立ちあがっていたペニスが、びくりと反応した。 「文彰さん……」  そろそろ下着を脱がすと、ぶるりと硬いペニスが飛び出してきた。むっとする若い雄のにおいに、文彰は頭がくらくらした。  亀頭に何度かキスをして、唇で柔らかく食(は)むようにする。ますます大きくなる陰茎を掴み、先っぽを舐めた。 「文彰さんっ……ねぇ、次、どんな格好がいい?……ね、医師と看護師とか」 「んぅっ」  先っぽをちろちろ舐めていると、ぐっと後頭部を掴まれて、咥えさせられる。天外はイラマチオが好きだ。文彰の咽喉の奥まで突いて、がんがん腰を振る。文彰が苦しそうに嘔吐くと、興奮して射精するのが当たり前になっていた。 「なんの格好が、っ、いいかなっ、ねぇ、教師と生徒は?文彰さんっ、教室で、バックで犯したいっ」 「んぅ、っうぅ」  青臭い先走りが、口の中に広まる。唾液と一緒に、外に吐き出そうとしても、天外が許さない。ぐっと後頭部を押し込められて、文彰は涙が出ていた。 「あ~、やばい、やばい、文彰さんの口まんこっ、最高っ!やばいよっ」  亀頭の先で、上顎をなぞられ、咽喉の奥を行き来するペニスに、文彰は夢中になっていた。天外が後頭部を支え、好き勝手に腰を振ると、オナホになった気分だった。物として扱われる――社内で煙たがられている文彰も、流石に屈辱を感じるはずだった。 「んっぅ、んううっ、ぐぅ」 「文彰さんっ、ねぇ……勃ってる」  天外が面白そうに、文彰の股間に足を忍ばせる。足の指で、テントを張った股間をぐりぐりと押すと――突っ込んでる穴が締まる。  文彰のフェラが激しくなり「好き?」と天外は囁いた。 「文彰さんって、ちんこしゃぶると、……っいつも勃起させるよ、ねっ、好きなの?俺のこと、好き?」 「んぅ、んぅぐぅっ」  目から涙が溢れてくる。苦しいのに、今にも吐きそうなのに、下半身が濡れている感触がする。我慢汁が下着を汚しているのだ。青臭い、年若い男のペニスを咥えていると、頭が犯される気がした。  この固くて、口に咥えるのも苦労する巨根が、いつも文彰の中に入ってくる。狭い内壁を押し上げたり、拡げたりして、文彰を犯すのだ。  奥まで突かれると、尾てい骨から痺れが走る。骨抜きにされたような――体がばらばらになる瞬間。  早く。 「んぅっ」 「……飲んでよ」  男のペニスが十分に育つと、文彰は口を離した。あともう少しでイけるはずだった恋人は、不満そうに唇を噛んでいた。 「て、てんがいっ、ね……こ、こっち、こっち、いれ、て」  若い男に、中年は縋り付いていた。床に座り込み、手を引っ張る。しゃぶって、文彰の唾液塗れになった陰茎が、すぐ目の前にあった。 「ねぇ、てんがい……」 「……次、学生服でやりたい」 「いいよ、なんでもするから。なんでも着るから、……っな」  天外の両手が、そっと文彰の肩にかかる。リビングに押し倒されたら、このまま正常位でセックスか――むずがるように手を跳ねのけ、文彰は天外の腰を掴んだ。 「なに?」 「……今日は、俺が上……騎乗位で……やりたい、ね、駄目か?」 「……ナース服も着てね?」  天外の要求に、文彰は喜んで首を振る。セックスの最中は良い。新婚旅行とか、引っ越しとか、面倒なことは何も考えなくていい。  突っ込まれて、犯されたい。  文彰はそそり立つ赤黒い肉棒に、口の端から唾液が零れていた。天外がリビングに仰向けになると、ローテーブルの備え付け引き出しから、ローションを出した。  指を濡らし、尻の窪みを往復する。一人で尻の穴を弄っても、正直、気持ち良くない。でも、目の前にはご馳走がある。  硬くて、太い、持久力もある若い男のペニス。いつも天外とセックスすると、若いっていいなと――年下ばかり付き合おうとする中年の気持ちが、少しは理解できるようになった。 「てっ、てんがぃ、あんっ、あぁっ」  目の前に男根に、文彰の目は濁っていた。勃起したペニスを前にして、後ろを弄ると、いつも以上に気持ちがいい。  くちくちと内壁を押し広げようと、指を掻き回していく。目の前の赤黒いペニスに、内壁が鳴き声を上げていた。 「文彰さん、一人で気持ちよくならないで」 「てん、がいぃ、ま、って、待ってね、まっ、て、ねぇっ」  やっと指が二本入ったところで、文彰は天外にまたがった。狭いが、もう我慢できない。尻の窪みに亀頭を押し当て、少しずつ腰を降ろしていく。 「あっ、あぁ、あぁぁっ、て、てんがぃぃ」  ぐぷりと入口が、切っ先を食んでいく。肉棒に絡み付こうと、内壁が収縮していた。何回挿入れても、天外のペニスは大きいから時間がかかる。  興奮して、充血した男根を少しずつ飲み込むたびに、文彰は内臓を押し上げられる感覚がした。このまま腰を降ろしたら、腹を突き破られるかもしれない。 「ふ、ふみあきさん、きつ、い……きついよ、なか」  同じくらい、苦しそうな天外の上で、文彰は少しずつ、雄を飲み込んでいった。やっとありつけたご馳走を、もっと味わいたい。  根元まで咥え込むと、文彰は腰を振り始めた。 「て、てんがぃ、てんがぃいっ――あっ、あんっ、あぁっ」  年下と付き合いたがる中年の気持ちがわかる――文彰には、小さな燻りが生まれていた。  若く、自信があるのか、天外は荒っぽく、気が早い。腰を叩きつけるだけのセックスが、不満の種だった。 「あ、んっう、文彰さんっ、いい、いいよっ、凄く、いいっ」 「て、てんがいっ、ここ、ここ、すきぃ、お、奥当たるとこ、ここ好きっ」  でもこうして上に乗れば、若い男をある程度、コントロールできる。本人に面と向かって、セックスの不満を言えない文彰は、天外のペニスを使って、腰を振っていた。  一番、自分が気持ちいいところ。ペニスの先が当たるように、腰を上下する。抜き差しされる入口から泡が溢れて、水音が響いていた。 「あぁっ、あんっ、あ、あっ、」  若い男に乗って腰を振る中年は、乳首を弄っていた。ぷくりと腫れた乳頭を摘み上げ、強めに捻じる。ビクビクと腰から痙攣が走り、天外が悲鳴のような声を出した。 「ま、まっ、て、ふみあき、さんっ」 「て、んがぃ、い、いこっ、いこぉ」  かくかくと腰を揺らしながら、文彰は泣いていた。涙のせいで、ぼやけてよく見えない――別にいいか。部屋に、恋人と二人きり。どんな痴態を晒そうと、天外しかいないのだから。  文彰は思う存分、腰を振っていた。
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