2/4
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
紹介と共に画面に映し出されたのは、デビューシングルのPVだった。 暗闇ステージで、スポットライトを浴びながら歌うのは、二人の男子(・・)。 颯真とーーもう一人の同居人。 「ほら、水月。俺たちが紹介されてるよ」 颯真はキッチンに向かって声を掛けるが、何も返事がなかった。 「水月?」 そっとキッチンに近づくと、火にかけた味噌汁の鍋の前に水月はいた。 唇を噛んでぐっと俯く水月を見て、颯真は気づいた。 「もしかして、緊張してる?」 コクリと水月は頷く。 「やっぱり、私に(ひかる)の代わりは無理だよ……」 小さく呟く水月の声は、けたたましく響く鍋のタイマーに消されたのだった。 二人組男子ユニットの「IM」には秘密がある。 リーダーの颯真とメンバーの光。 けれども、光の正体は、光の双子の妹の水月であった。 ユニット結成の前日に行方不明になった光の代わりに、颯真とユニットを組んだのは水月であったーー光の身代わりとして。 光が見つかるまでという条件の元、水月は光としてユニットを組んだ。 当初は颯真にも秘密にしており、頑なに他者との間に壁を作っていたが、秘密を共有してからは仲間として親しい関係となっていた。 家事が一切出来なかった颯真に代わり、水月は料理から掃除まで、家事を一手に担ってくれていた。 さすがに、水月に洗濯まで頼むのはーー男物の下着まで洗わせるのは気が引けるので、それだけは自分でやっていた。 ただ、使い切った洗剤や柔軟剤だけではなく、共有の風呂場に設置しているバスアメニティーの補充は、いつも颯真より先に水月がやってくれていた。 本人は、「自分が使い切ったから」と言っていたが、それだけではないと颯真は思っている。 水月自身がきっちりした性格なのだ。 おそらく、実家では光の代わりに、色んな事をやっていたのだろう。 最近では、共同生活をする上での家計簿まで付け始めたくらいだ。 そういう几帳面なところは、颯真と歳の離れた姉貴にそっくりだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!