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紹介と共に画面に映し出されたのは、デビューシングルのPVだった。
暗闇ステージで、スポットライトを浴びながら歌うのは、二人の男子。
颯真とーーもう一人の同居人。
「ほら、水月。俺たちが紹介されてるよ」
颯真はキッチンに向かって声を掛けるが、何も返事がなかった。
「水月?」
そっとキッチンに近づくと、火にかけた味噌汁の鍋の前に水月はいた。
唇を噛んでぐっと俯く水月を見て、颯真は気づいた。
「もしかして、緊張してる?」
コクリと水月は頷く。
「やっぱり、私に光の代わりは無理だよ……」
小さく呟く水月の声は、けたたましく響く鍋のタイマーに消されたのだった。
二人組男子ユニットの「IM」には秘密がある。
リーダーの颯真とメンバーの光。
けれども、光の正体は、光の双子の妹の水月であった。
ユニット結成の前日に行方不明になった光の代わりに、颯真とユニットを組んだのは水月であったーー光の身代わりとして。
光が見つかるまでという条件の元、水月は光としてユニットを組んだ。
当初は颯真にも秘密にしており、頑なに他者との間に壁を作っていたが、秘密を共有してからは仲間として親しい関係となっていた。
家事が一切出来なかった颯真に代わり、水月は料理から掃除まで、家事を一手に担ってくれていた。
さすがに、水月に洗濯まで頼むのはーー男物の下着まで洗わせるのは気が引けるので、それだけは自分でやっていた。
ただ、使い切った洗剤や柔軟剤だけではなく、共有の風呂場に設置しているバスアメニティーの補充は、いつも颯真より先に水月がやってくれていた。
本人は、「自分が使い切ったから」と言っていたが、それだけではないと颯真は思っている。
水月自身がきっちりした性格なのだ。
おそらく、実家では光の代わりに、色んな事をやっていたのだろう。
最近では、共同生活をする上での家計簿まで付け始めたくらいだ。
そういう几帳面なところは、颯真と歳の離れた姉貴にそっくりだった。
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