3/4

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
姉貴は専門学校を卒業すると、コツコツと貯めていた貯金を使って、すぐに実家を出て、自立した。 颯真が実家を出て、水月と共に事務所が借りているマンションに住み始めた際、洗濯機や掃除機といった家電や、高級炊飯ジャーや電子レンジといった調理器具セットを送りつけてきたのも、いい機会だから自立をしろという意味だろう。 ただ、その家電は颯真ではなく、水月が使っているので、姉貴の思惑通りには行っていないようだが。 「水月?」 完成した朝食を前にしても、水月の顔色は優れなかった。朝食にもほとんど手をつけていなかった。 このままでは、せっかく朝早くから作ってくれたお味噌汁にほかほかのご飯、適度に焦げ目のついた焼き魚が冷めてしまう。 「食べないと、身体がもたないよ。昼には、現地入りしないといけないんだからさ」 「sing! sing! sing!」は、スタジオとは別に全国各地にアイドルたちが点在して、歌を披露する姿が中継される。 颯真たち「IM」も、とある遊園地の野外ステージから、中継される事になっていた。 そこまでの移動時間や、リハーサルの時間を考えると、ゆっくり座って食事が出来るのは、朝のこの時間しかないだろう。 「わかってる。でも、ソウ君とも光とも違って、私らダンスは下手だし、歌もトークも上手くない」 「そんな事は無い。水月だって、光と同じくらい上手だよ。もっと自信を持って」 本物の茂庭光には、最終オーディションでしか会っていない。 でも、その時に見ただけで、光が全てにおいて秀でているのがわかった。 ーー天才という言葉は、光の様な人を指す為にあるのだと。 けれども、水月だって、充分に上手かった。 歌も、ダンスも。 トークもこれから数をこなせば上手くなる。と颯真は確信していた。 おそらく、これまでは光の影に隠れて、水月はあまり目立たなかったのだろう。 今は光という「比較対象」がいないので、水月自身の力をはっきりと感じられた。 「今でも、初めて水月の歌声と合わせた日を覚えているよ」 目を瞑れば、水月と初めて歌を合わせた日ーー歌のレッスンの初日を思い浮かべられた。 あの日、颯真は水月の歌声に戦慄したのを覚えている。 明らかに光とは歌声も声質も違かった。 けれども、颯真の歌声と合わさるように、水月の歌声がピッタリとはまったのだ。 あそこまで、誰かと歌っていて気持ちいいと思った事はなかった。 ずっと歌っていたいとさえ、その時の颯真は思ったのだった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加