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本番前
これまで、TV番組の出演で観客の前に立った事は何度かあった。
けれども、生放送のステージに立つのは初めてであった。
「み……、光……?」
昼前に練習を切り上げた二人は、マネージャーが運転する車に乗って、ステージとなる遊園地にやってきた。
広場に建てられた野外ステージでのリハーサルを終えて、控え室に戻った二人だったが、水月の様子がおかしかった。
タオルを渡した際に触れた手は震えて、顔色も悪くなっていた。
「どこか具合が悪いの?」
パイプ椅子に座って、左右に首を振った水月に、颯真は気づく。
(完全に緊張に負けてるな……)
この状態で水月をステージに出させたら、それこそ普段はやらないようなミスを連発するだろう。
ーー益々、水月は自信を無くすに違いない。
(どうする?)
壁掛け時計を確認すると、オープニングの撮影開始まで、一時間程余裕があった。
少しくらいなら、野外ステージから離れても大丈夫だろう。
(何かあったら、あとで怒られればいいか)
颯真はパイプ椅子から立ち上がると、水月に近づく。
「光、ちょっといい?」
「ソウ?」
「気分転換に外に出ない? 少しだけ」
返事を待たずに、颯真は水月の腕を掴むと、控え室を出る。
「まっ……! ソウ……!?」
すれ違うスタッフたちに「少し外の空気を吸ってきます」と言いつつ、颯真は水月を連れ出す。
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