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スワイプ、スワイプ、スワイプ。
世間が浮かれ始める季節、ある夏の昼休み。
スマートフォンの画面には、彼女の姿が何枚も映し出されていた。
何度も一緒に食事をし、時に遊びに出かけ、その写真が蓄積されるにつれ、私たちの間柄が明らかにされていくようだった。香草を使った唐揚げが乗った皿をにこやかに掲げて、画面の中の彼女は、屈託なくこちらを見つめていた。
その時、昼食を外に買いに出かけていた彼女が戻ってきて、私の後ろをよぎった。
「もう、何見てるんですか?」
彼女は私のスマートフォンの画面に気が付いてしまったようで、声をかけてきた。
「ん?あぁ、この唐揚げ美味しかったなーって。ちょっと思い出して」
「ほんと!あのお店、素敵でしたよね」彼女は自席に着いて続けた。「でも、この前行けなかったイタリアン、今度また行きたいですね」
「うん。ねぇ、いつ行ける?」
彼女はその言葉を聞いて、すぐに小さな手帳を取り出した。文庫本サイズのブルーグレー色のカバーをしていた。彼女は両手で丁寧にその手帳を開くと、視線を落としてカレンダーを確認した。
彼女の奥にある窓から晴天の光が入り込むと、室内の蛍光灯と合わさって、どこかちぐはぐな思いがした。
「今週末とかは、いかがですか?」
彼女は手帳を閉じてそう言った。
「あっ……ごめん、ちょっと今週は……」
「……デートですか?」
「違うって!地元に帰らなくちゃいけなくて」
「へぇ……どこですか?地元って」
「下関。本州の一番端っこ」
「意外です。もうすぐお盆なのに、今なんですか?」
「うん。妹の婚約で。両家顔合わせ的なね」
「…………憂鬱なんですか?なんだかーー」
その通りだ。
彼女はその大きな瞳で私の全てを見ているような鋭さを時折みせた。嘘の鎧にそっと手を添えて、ゆっくりと少しずつ剥がしていく。そういう風に彼女は私を取り扱うのだった。よく考えると、恐怖と快楽が共存しているように思われた。そのことを、徐々に自覚していったのだった。
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