第三話

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第三話

 淳子が亡くなって以来、アタシはダークジュエルを使っていない。 何せ、二つの願いをかけて以降、ダークジュエルの色が青色から濁った黒色に変化したからだ。 麗佳は言っていた。色が変わったダークジュエルを使用してはならないと。 目標も達成したので近々処分しようと考えていた。 しかし、事は思うように進まなかった。 「これ、何?」 家に帰るなり、アタシの部屋にいた妹がアタシに聞いてきた。 妹はアタシの部屋にある漫画やブルーレイを持っていく、そこまでは許容範囲だが、 人の私物を持ち出すのは駄目だ。ましてやダークジュエルは危険すぎる。 「(まい)には関係ないでしょ」 アタシは言った。 しかし舞は簡単には引き下がらない。 「教えてよ、誰にも言わないから」 舞はダークジュエルを持って訊ねた。 舞の「誰にも言わない」は信用できない。何故なら舞は口が軽いからだ。 アタシが内緒にして欲しい秘密をすぐに両親に話してしまったからだ。 以降舞には内緒話はしないと心から誓った。 「話せないわ、だから返して」 「いやだ!言ってくれるまで返さない」 舞は譲らない。 我が儘を言えば通用すると思っているが、そうはいかないことを教えなければならない。 「あなたね、何でも思い通りになると思ったら大間違いよ、返しなさい」 鞄を下ろし、アタシは舞の手をつかんだ。 「どうせお母さんに買ってもらったんでしょ! ずるい!」 「違うわよ!」 「じゃあ何で本当のことを言ってくんないの?」 「あなたの口が軽いからよ!」 アタシが指摘しても、舞は手を離さない。 「軽くなんかない!」 舞は認めたくないような言い方だった。 「あなたに内緒話をして 内緒にはならなかったもんね!」 「お姉ちゃんのばか!」 舞は罵り言葉を吐いた。 本当のことを突かれ、同様同様したことがうかがえる。 「ばかは言う方がばかなのよ」 アタシは舞を挑発した。 「自分だって言ってるじゃない」 「言ったのはそっちでしょばか舞」 「なによっ!」 舞はアタシの足を蹴る。 「痛った……何すんのよ!」 アタシも負けずと頭を軽く叩いた。 アタシと舞の喧嘩は、更に続いた。下らないとアタシは内心思った。 ……舞にいなくなって欲しいだなんて、思ってなかった。 なのに…… 何の悪戯だろうか、ダークジュエルは音を立てて亀裂が走り、割れた部分から灰色の輝きを放ち、目を開けていられず、アタシは目を瞑った。 それから数秒後、アタシは薄っすらと目を開く。 完全に光は失われていた。 「!?」 アタシは異変に気づく。 舞がいなくなっていた。 「舞?」 アタシは辺りを見回すが、舞の姿はどこにもない。 机の下や、ベッドの中など隠れられそうな所を探すが、舞はいない。 頭が混乱した。アタシは部屋を出て、家中をくまなく探した。 それでも見つからない。 「舞……悪ふざけはやめて出てきて……さっきのことは謝るよ……」 弱々しい声でアタシは呼び掛ける。 「探しても無駄よ、あなたの妹はダークジュエルが消したから」 聞き覚えのある声に、アタシは振り向くと、麗佳が立っていた。 どこから上がり込んだのだろう、本来なら勝手に入るなと注意する所だが、今はそれ所ではない。 「どういう……ことよ」 「ダークジュエルの色が濁った時に使用したからよ」 「アタシは舞を消すように願ってなんかないわ」 アタシは叫ぶ。 「あなたがそう言っても、心のどこかでは妹に対して憎しみを抱いてたのよ」 アタシは言葉を失う。 冷静になった今、考えてみると、甘えん坊な舞を、可愛いと思いつつ、その反面でわがままな部分があると思っていた。 でも、舞とは一緒に遊んで楽しかったし、喧嘩もするけど、舞がいなければ味わえないことが一杯あった。 アタシは麗佳に近づいた。 「舞を……妹を取り戻す方法があるなら教えて」 彼女が言うように、無意識とはいえアタシが消してしまったのなら、舞を取り戻したかった。 「無理よ、一度消えたものは二度と戻せない」 「どうしてよ!?」 「死んだ人間を生き返らせることができないのと同じよ、あなたの妹はこの世から消えたの、ダークジュエルに定められたルールを破った罰として」 女の言葉はアタシの心を突き刺し、アタシはその場にへたりこんだ。 そうだ。アタシは二人の人間を死なせた。 前村と淳子が憎くて、ダークジュエルに消滅を願った。 だけど、どんなに憎い人でも、家族や友人がいて、自分の都合で、殺してはいけなかった。 舞を失って気づいた。 これはアタシへの罰なんだ。 アタシを除いては舞の記憶は消えていた。 家族も、友達も。 これもダークジュエルが与えた罰なんだと。麗佳は言っていた。 ……ごめんね。舞。 アタシは自分のしたことを後悔して日々を過ごした。
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