シンデレラのキッチン

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午前0時を過ぎるとクーラーボックスは四角いパンプキンに変わる。比喩というより概念的な意味だ。 カボチャは柔らかくて食べやすく栄養満点で美味しい。そんな位置づけを私はしている。 午前五時の始発駅。小柄に似つかわしくないクーラーボックスを担いだ女がいる。そして早朝から改札口にたむろする人々はギョッとする。膝上スカートにジャケット。おおよそ彼らの目的地に相応しい服装と乖離している。 そして肝心の釣り竿を所持していない。ボックスの中身は空でも肩こりが倍加する。やがて普通電車が入線しよろよろと二人掛けシートに倒れこむ。たちまち睡魔が襲ってくる。到着を告げるリマインダーがスマホをブルブルと震わせ私は人をかき分けて降車する。黄色い眼をこすりながらマンションの階段を這い上がり郵便の束を抱え玄関先に倒れこむ。 そして昼過ぎに着信音が鳴り「プログラマーの〇〇が病欠した。応援を頼む」と指示され、1時間で身支度を整える。そしてタクシーを呼んである場所によりクーラーボックスを満腹させるのだ。 シンデレラはシンデレラ城よりも素敵な場所で武器を揃える。 立派な門には書いてある。 『職人スーパー』 小さな文字で「一般向けの小売りもしております。どうぞお気軽に」と申し訳が添えてある。しかし一歩踏み入れれば殺伐とした内装で一見さんお断りな空気がビリビリと震えている。
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