1. 過ち

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 苦悩にも、私の父親はその組織の上層部の人間だ。だから、私も生まれた時からその闇に居た。物心ついたときから、太陽の暖かさも、風の冷たさも、土の柔らかさも、何も知らないままその地下で育った。  その地下では、学ぶ事と戦う事を教えられてきた。教官は実際軍人として訓練を受けたらしい人で、私たちはそこで毎日辛い訓練を受けていた。 もちろん、人殺しの訓練だ。 私の他にも、子どもは沢山居た。私のように外の世界を自分の目で見た事が無い子どもばかりだった。殺しのために産まされてるのではないかと、子どもながらに感じる程、私たちは「子ども」として扱われることがなかった。  私が初めて地上に足をつけたのは七歳の時だった。 地下の人間が地に足をつける時。 それは、地上の偵察、もしくは人を殺しに行く時だ。 私の場合は、後者であった。 初めて外の世界を見た記憶は、今でも鮮明に残っている。地下の出口は様々な場所にあって、どこも人気(ひとけ)の無い細い道や森の中、時には組織が所有する地上の「家」に繋がっている。 私自身は初任務の時、家と家の壁の間にある細い道に出た。外に出る時は地下の存在がバレないように、慎重且つ素早く出なければいけないので、その出口を開けてから閉めるまではずっと気を張っていた。 が、上手く出られたと一息ついた瞬間、外の世界が一気に私の中に飛び込んできた。 外は美しかった。 藍色の天井に浮かぶ無数の白い光。 少し柔らかい地面。 外のにおい。 頬を撫でる冷たい風。 どんな写真や映像よりも、この目で直接触れる世界の方が断然に輝いて見えるものだ。 子どもながらに初めての世界にそう圧倒されていた。 過去数年、白く冷たい壁と地面に閉じ込められて生きてきた子どもにとって、刺激の連続であるその時間では本来の任務など忘れて当然だろう。私は気づけば夢中でその小道を走り抜けていた。 立ち並ぶ石調の家々には、それぞれに人が暮らす様子が外からでも見られ、私にはなかった『普通の』生活がそこにはあるんだろう。 そして何より、走っても走っても行き止まりがなく、天井の光たちも着いてくる。まるで自然と遊ぶように、幼い私は夜の地上を駆け巡った。
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