1. 過ち

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 が、再び自分の立場を思い出した私はハッとし、捕まるかも知れないと言う可能性を想起しては、踵を返して再び走り出した。 「あ、こら、待ちなさい!」 私が逃げると、やはりその警察官が私を追ってくる音が響き始めた。 逃げながら、私は必死に「恐怖」と言う感情と戦っていた。戦わなかったのは、その感情が湧き上がったからだ。こんな事、教官に知れたら.... 教官に言わせれば、恐怖とは弱みであり、隙であり、いつでも逃げると言う選択肢が付きまとう、必要のない感情の一つだ。弱いものは要らない。強い者だけが生き残れる世界。だから、弱い感情である恐怖など、覚えてはいけないのだ。  そう脅されて、私たちは育った。上層部の子どもなんて、関係ないのだ。誰の子どもであれ、ただの道具としてしか見られていない。あの空間では誰しもが使い捨てのロボットなのだ。  路地を上手く使いながら警察官から逃げていると、次第に気持ちに余裕が出てくることに気がついた。どうやら私はすばしっこいようで、その警官から距離を離す度、楽しい気持ちになっていることに気がついた。  そして私は、子どもの遊びと言う「鬼ごっこ」をしている気分になった。  かなり距離を離したのだろう、その足音が聞こえなくなった時、私の顔には笑みが零れた。  私の勝ちだ。  そう思ったのもつかの間。  「見つけた!」  突然目の前に、その警察官が現れた。どうやら、家の角に先回りをされていたらしい。  「どうして逃げるんだよ...。お嬢ちゃん、おじさんは...」  かなり頑張って走っていたらしい警察官は酷く息を荒らしながらそう吐いた時だった。
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