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「おやおや、こんな所に居たのかい。心配したんじゃぞ。」
突然新しい声が後ろで聞こえた。驚いて振り返ると、そこの家からおじいさんが顔を出していた。
「すみませんのう。うちの孫がお転婆で。ご迷惑をおかけしました。」
そのおじいさんは警察官の人に目を向けて、そう言った。
おじいさんの言葉に警察官は腰を上げて、帽子を被り直した。
「これはこれは。お孫さんでしたか。追いかけ回してしまって、申し訳ない。」
そしてそう頭を下げた。
「いや、こちらの目が行き届いていなかったのが悪いんじゃ。すまんかった。ほら、中にお入り。」
おじいさんはそう優しい顔で私を中に促した。
どちらも知らない人。つまり、どちらにも危険は潜んでいる。
でも、このまま逃げ出せば、また警察官に追いかけられてしまう。
警察官に捕まってしまう方が厄介だ。
そう言う考えに至った私は、大人しくおじいさんの言う通にすることにした。
「ご苦労様です。」
私がおじいさんの開ける扉の中に入ったのを確認し、おじいさんはそう警察官に挨拶をして扉を閉めた。
「あの...ありがとう、ございました。」
その空間に二人きりになった時、私はまずお礼を言ってみた。おじいさんは尚も優しい顔で頭を縦に振った。
「お嬢ちゃん、どこから来たのかな?」
するとおじいさんも警察官と同じことを私に聞いた。こんな夜に一人で歩き回っていた子どもには当然の質問かも知れないが。
何であれ答えることの出来ない私がまごついていると、おじいさんはそれを察してくれ、話を変えた。
「おなかはすいているかい?丁度今から夜ご飯にしようと思っていたんじゃが。」
知らない人から貰う食料は危険が高い。何が盛られているか分からないからだ。本来ならそんなものを口にしてはいけない。それは組織だけではなく、この世界の常識のようだ。
だが、そうとは分かっていても、私の中には好奇心も同じくらい高ぶっていた。
地上の料理とはどんなものなのだろうか。
地下では白い壁に囲まれた殺風景な部屋の中で、栄養満点だがそれでいて味の薄い、似たようなものばかりを摂っていた。
だから、地下で学んだ地上の料理にはとても興味があった。既に匂いが漂うこの暖かい空間に身を置いていたこともあり、私はついに耐えられなくなって、おじいさんの質問に頷いてしまった。分かった、とおじいさんは優しく微笑んで、私を部屋の奥に案内してくれた。
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