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奥のリビングには、ストーブやロッキングチェア、木製のテーブルと椅子が二つ置いてあった。珍しく完全に洋風なインテリアだった。
椅子が二つあると言う事は、もう一人誰かこの家に住んでいるのだろうか?そうだとすれば、片方の椅子を陣取っては申し訳ない。どうしようと一人おろおろしていると、おじいさんが料理の乗ったプレートを手に、キッチンの方から戻ってきた。そのお皿に注がれた白い液体からは湯気が立っていた。
「おまたせしたのう。そこについてもらえるかな。」
おじいさんにそう言われたので、私はもう一人の住人の事を心配しながらも、少し高いその椅子によじ登った。
「温かいうちに召し上がれ。」
そしておじさんはそのお皿を私の前に置いた。
その白い液体の料理は、見覚えがあるような無いような、そんな見た目だった。中にはブロッコリーやニンジン、肉がごろごろ浸かっていて、私は必死にその名前を思い出そうとした。
「シチュー、嫌いじゃったかの?」
艶やかなその温かい食べ物をじっと眺めていた私に、おじいさんは心配そうな声で聞く。
そうだ、『しちゅう』だ。
おじいさんのおかげでようやく思い出した私は顔を上げ、首を横に振った。
そして置かれていたスプーンを手に取って、私はそれをゆっくりとすくった。
「熱いから気をつけるんじゃぞ。」
おじいさんの忠告通り、私は口をすぼめてそれに息を吹きかける。三度程ふーっと息をたててから、私はそれをゆっくりとすすった。息が足りずまだ少し熱かったものの、とろっとしたそのスープの、これまで食べたものの何よりも濃い味わいのそれに、私は感激を覚えていた。
こんなに美味しい食べ物が地上にあったなんて。
こんなものを知らずに私は今まで生きてきたなんて。
そのスープは私の喉を通り、胃に到達すると私の体を内側から温め始めた。スープに浸かる食材たちは、のぼせたように頭から湯気をたてていた。
あまりの美味しさに夢中になってスプーンを進めていると、おじいさんは優しく笑った。
「そうか。そんなに美味しかったか。孫に教わったものを覚えておいて正解じゃったのう。」
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