落とし物なんかしてない

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「落とし物!」 教室に入ったあたしは前の席の男子の背中をつついて声を掛けた。 振り向いた彼が怪訝な顔をあたしに向けた。 「落とし物だよ。教室入る前にそこで落とした」 言ってあたしは彼に封筒を突き出した。 「落としてねえし」 ぶっきらぼうに言う彼にあたしは食い下がる。 「あたしの目の前で落としました!ちゃんと見たんだから!」 あたしの語気に周囲の生徒の眼が集まった。 「それ落とし物じゃねえから」 いうだけ言って彼がプイと正面に向き直った。 「だってあたしこの眼でちゃんと!」 彼の背中に封筒を持った手を押し付けて、食い下がるあたしに彼が背中を向けたまま答えた。 「読んでみりゃわかるだろ?落とし物かどうか」 むっとしたあたしは彼が落とした封筒の中を覗いて便箋を開いた。 便箋にはこれでもかというくらい大きく真っ赤なハートがひとつ書いてあった。 ずるいよ。 あたしは周囲の目を気にしてペンのお尻で彼の背中に返事を書いた。 なんて書いたかだって? 教えなーい。
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