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「ほら、モモ。花火だよ。見てごらん」
モモは聡の腕の中で、何度目かの花火を見ていた。
「モモ、甘えっ子だね」
「ベランダの手すりにジャンプできないんだよ。なんだかおじいさんになったよね」
「何歳だっけ」
十歳かな、と聡が言う。
「コンビニでバイトしてたのが、高二の時だから」
「ああ、そうだった。それで聡は、コンビニをクビになったんだった」
ビールを片手にお姉ちゃんが笑う。お父さんが「あの頃のモモは可愛かったなぁ」と言うと「今も可愛いよね」とお母さんが笑った。
「おじいさんになっても、モモは可愛いよ」
聡はモモを優しく撫でた。
猫が使う小さな魔法を人間たちは知らない。
知らなくていいのだ。猫たちが勝手に決めたことだから。そうしたいから、そうするだけ。
ニャアと鳴くと、聡はモモの耳に鼻をつける。
「うん。何?」
大好きだよ、聡。
聡の猫で、モモはどれほど幸せだっただろう。
「いい子だね。モモは、本当にいい子」
大事にされ、可愛がってもらった。
それが、モモの全て。
それで十分。
了
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