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 猫仲間の種類は大きく分けて四つ。  野良(のら)地域猫(ちいきねこ)、外出自由猫、完全室内飼い(かんぜんしつないがい)で、このうち野良と地域猫、外出自由猫が月に一度の猫集会に参加する。  完全室内飼いの猫には必要に応じて係の猫が接触すると、黒猫は説明した。 「詳しいことは、参加しているうちにわかるから」  猫らしい柔軟さでさっくり話を締めくくる。  自分の席に戻るよう促され、モモは一番端の躑躅(つつじ)の根元に移動した。  公園内にはたくさんの席が用意されていて、一定の序列によって座る場所が決まっている。  どの席からも、滑り台になっている築山(つきやま)のてっぺんが見えた。  モモが席に着くと、今度はモモよりひと月ほど年長の小柄な三毛猫が築山に上がった。 「次に、高田(たかだ)さんの猫、ハナビの『願い』についてです。ハナビは、『ずっと、お母さんのそばにいる』という願いを叶えたいそうです」  お母さんとは猫のお母さんではなく、高田さんのことだ。 「捨てられそうなのかい?」  一匹の猫が聞いた。  ハナビは大きく首を振った。 「お母さんは、とても私を可愛がってくれます」 「だったら、わざわざみんなの力を借りなくても……」  ほかの猫が言い、みんなも口々にその通りだと言った。可愛がってもらえているなら、魔法の力など使わなくてもずっとそばにいられるはずだと。 「なんのことか、わかるかい?」  白いふさふさした毛の猫に声をかけられ、モモは首を左右に振った。  白い猫はユキと名乗った。かなりのおばあさん猫で、高いところに上るのが億劫で下の席にいるのだと言った。 「ここにいる猫はみんな、魔法の力でそれぞれ一つだけ願いを叶えてもらうんだ」  魔女の助手をしていた名残で、猫には少しばかり魔力がある。一匹の魔力は微々たるものだが、全員の力を合わせれば小さな魔法が使えるのだと教えてくれた。  小さい力なので、できることは限られている。自分たちの身の回りのことだけ。世界を変えるほどの力はない。 「それでも魔法は魔法。効き目は確かだ。あんたもいつか聞かれるだろうから、何か考えておくといいよ」  大人の猫たちの意見を聞いても、ハナビの答えは変わらなかった。 「お母さんは、私に名前を付けてくれたの。茶色と黒の背中の模様が花火みたいだから、ハナビなの」  ハナビは嬉しそうに言った。 「私、お母さんのそばにいたい。ずっと」  最後には、本猫(ほんにん)がいいならいいのではないかということになった。猫は、だいたいそういうものだ。意見は言うけれど、押し付けたりしない。 「モモは、どうしてモモっていうんだい?」  ユキに聞かれて、白黒の模様が牛みたいだからだと答えた。最初はウシ、次にモーがいいと言われ、だったらモモのほうが可愛いいということで、この名前になった。 「聡と、お母さんとお父さん、それとお姉ちゃん、みんなで考えて付けてくれたんです」 「そう」  ユキは頷き、「いい名前だね」と言ってくれた。
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