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「僕の?」
直登は思わず聞き返した。
「少女の、家族らの、心を、愛し愛されていることを全否定しろ。俺はお前の刀と楯だが、お前の闇を宿した言葉こそ、彼らを闇の中に突き落とす〝目に見えぬ刀〟となるだろう。なにより、純化されている。……なあ、〝目に見えぬ刀〟を使い、人の心を殺す、覚悟はあるか?」
ヴァノは静かな声で尋ねた。その目は刃物のように鋭かった。
「……僕はいい感情を、生きる環境を変えるために差し出した。どんなふうになるか分からないけれど、それが、闇の言葉が必要なら、言うよ。心なんてもう穢れている。……これ以上、罪が増えることになっても、僕はなんとも思わないよ」
自分のことであるのに、どこか冷めた表情をして、直登が言った。
「決まりだな」
ヴァノは冷たい笑みを浮かべた。
決行は夜。ヴァノは黒のジャケットを羽織り、右腰に刀を帯びた。ジャケットの上から、黒のフードつきの外套を羽織った。両手に革手袋を嵌めると、右手に取っ手つきの鞄を持って、階段を降りた。
一階の部屋を見ると、出会ったときと変わらない恰好をした直登がいた。
無言で外に出るヴァノに続く直登。
玄関の鍵をかけた後、ヴァノは歩き出す。
半歩後を早足で追い駆けてきた。
歩いて十分ほどの一軒家の前に立つと、ヴァノが身体を反転させる。
きょとんとする直登に、鞄を突き出した。
「俺の命よりも大事なものだ。お前が傷つくことは絶対にないから、預ける」
ヴァノはそれだけ言うと、ドアを蹴破って、土足のままずかずかと入っていく。
直登は鞄の取っ手をしっかり握りながら、乱暴だなと思いつつ、ついていった。
ヴァノの右目には、花模様が部屋中に広がっているのが映っていた。不快そうに顔をしかめた。
物音に気づいて、手を止めた女が、振り返って叫ぶ。
「あなた達はどこから入ってきたの!?」
左目には恐怖によるものなのか、その女からは薄い黒の煙が立ち昇った。
少女の姿はない。
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