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「誰でもいいだろう。……欲しいものがある」
ヴァノは低い声で言った。
「お金なの?」
「いいや、命の次に大事なモノだ」
ヴァノは冷たい笑みを浮かべた。
それに怯える女。
「親が子を守り、育てる。それが当たり前だと思っていないかい?」
それまで黙っていた直登が口を開いた。
「だとしたら、なんなのよ!」
「それは当たり前だと思っていいことじゃない。この世には親に棄てられたり、早くに親を亡くして、独りで生きなければならない子もいる。親が子を愛するというのは、きっと、幸せなことなんだ」
直登は静かな声で言った。
「……だけど、僕は、それを赦せない。僕達は、君達を殺しにきた」
「娘は悪いことをしていないわ! どうか、どうか、娘だけは見逃して……!」
女から立ち昇っていた黒い煙が急に濃くなった。
「馬鹿だな。君はそれでいいかもしれないが、残された娘が路頭に迷うって、分からないのか? ……生きることは、とても惨い」
直登は、はっと鼻で笑いながら言った。
「小さな幸せにも気づけなくて、ごめんなさい! これからはそれを噛み締めるから……!」
そう言う女から放たれた煙は、部屋を覆い尽くしている。
「もう遅い。……君達はここで、死ぬんだ」
直登は、残酷な言葉を、噛み締めるように口にした。
「え……? し、死にたくない! 死にたくない!」
女は泣きながら、叫び始めた。
「……生きたいという願いを壊さなければ、僕は前に進めない」
呟くような台詞を聞き取ったのは、ヴァノだけだった。
「なにもかもに絶望したか? そんな貴様だからこそ、差し出せるモノがある」
ヴァノは一歩踏み出しながら言った。
「え……?」
「貴様が抱いている、その〝感情〟すべてを、もらい受ける」
茫然と立ち尽くしている女の胸に右手を翳した。
〝感情の支配者の名を以って命ずる。感情よ、我が手に宿れ〟
黒い光が生まれ、掌に乗るくらいの小さな宝玉が出てきた。と同時に、女の目から光が消えた。
「さらばだ。……小さな幸せにも気づけない、愚か者よ」
ヴァノが言いながら、刀を抜いた。
深いダークパープルの刀身を見た直登は、その美しさに目を奪われた。
ヴァノは躊躇わず、女の首を刎ねた。
鮮血が迸り、生首がごろんと床に落ちた。
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