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廊下に飛び出してきた少女を直登が睨みつけた。
「君の母親を殺したのは、僕の後ろにいる男だよ」
残酷とも言える言葉を、直登は落ち着いた声で告げた。
「え……? どうして、どうして? 殺されなければいけないの!」
少女が叫んだ。
「幸せだから、だよ。僕から見てね」
直登は目を細める。
「え? 家があって、親と生活していることなんて、当たり前でしょう? おかしいことなんてなにもない。普通のことでしょう!?」
「君達の普通と、僕の普通は違うんだ。自分の家なんてないし、親もいない。その日を生きるために、川の水を飲んでさ。これが僕の〝普通〟だ」
直登は少女を真っ直ぐに見つめて言った。
「そ、そんなの、認めない!」
少女は言い放った。
「君の想いなんて、どうでもいい。家があって、親がいて、よかったね。自分の家が最期の場所だなんて。僕は望んでも、手に入らない」
「し、死ぬのは嫌!」
泣きながら少女が叫んだ。
「生かしておいて、どんな得があるというんだい? この世の中のことなど、ほとんど知らないような君が、たった独りで生きる? 馬鹿だな」
直登は吐き捨てた。
「君は親が死んだことで、とても動揺している。親が自分よりも先に死ぬと分かっていて、まだ大丈夫だと、甘えていたんじゃないか? ……君を助ける者など、誰も、いないんだ」
直登が言うと、少女の目から光が消えた。
「まだやりたいことがあったのに、ここで死んじゃうんだ……」
直登が鼻で笑った。
「それも、幸せなことだね。僕には選ぶ権利もなかった。生きたいから、今の道を歩き始めた。僕は君の幸せの芽を摘み取りにきたんだ。……さようなら、親に愛された人よ」
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