第三章 直登の抱える闇

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第三章 直登の抱える闇

 初仕事を終えてから数日後、直登が話したいというので、ヴァノは一階に降りてきた。  直登はベッドに腰かけ、ヴァノは壁に背を預けて腕組みをした。 「君に出会う前の話をしておこうと思って」 「聞くぞ」  静かな声でヴァノが言った。 「まだ小さいころ、家があったし、親もいた。でも、十歳になったとき、そのふたつを同時に失った。理由は分からない。ただ突き放されて、捨てられた。僕は街を彷徨い歩いた。そんなある日、通りがかった年上の子に殴られた。蹴られた。痛いと言ったのに、止めてくれなかった。ここにいたら、死んじゃうと思った僕は、誰もいないはずだと思った街の外れを目指した。その間、助けてくれる人はいなかった。それから長い時間をかけて歩いたら、ようやく川の音が聞こえてきた。そこなら、生きられると思った僕は、水だけを飲んで、今日まで生きてきた。それから何度か四季を乗り越えた。その生活を始めて、だいぶ経ったとき、君があらわれた」 「……」  ヴァノは目で先を促した。 「人が死ぬのは初めて見たけれど、動じなかったな」  そう言った直後、直登の頬に一筋の涙が頬を伝う。 「なんで……?」  直登は、なにが起こったのか分からず、混乱した。 「俺がもらったのは、人の感情の中でも、明るいモノだけだからな。負の感情は、残っているんだよ。んじゃない。動揺したのに、それを冷静な仮面で覆い隠しただけだ」 「……僕が、彼女達の、心を、殺した」  直登は光を失った目で、宙をぼんやりと見つめ、ゆっくりと、確かめるように、口にした。  目からは涙がとめどなく溢れてくる。
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