19人が本棚に入れています
本棚に追加
第四章 キャリアウーマン
それから一週間後、ヴァノは直登に次の標的が決まったことを伝えた。
決行日を告げると、直登はうなずいて眠りについた。
翌日の夜、ヴァノは武装し、直登はいつも通りの恰好で、標的が住むマンションへ。
建物を見るなり、ぽかんとする直登。
「こういうところには、いろいろな人が住んでいる」
雑とも思える説明をして、直登に鞄を預け、中に入っていく。
直登は取っ手を持つと、慌てて追い駆けた。
ヴァノは通りがかった人を手当たり次第、斬りつけ始めた。
皆最初に殺された人の状態を見ているからか、必死に命乞いをしてきた。
ヴァノはそのどれも承諾せず、一思いに殺し続けた。
目的の部屋に向かうまで誰であろうと殺していく、ヴァノの背中を見ながら、直登は思う。
――人を殺すことに慣れている気がした。人の剥き出しの感情を目にしながらも、動じない。まるで、自分の姿を見られたが故の、口封じをしているように思えた。
「なあ、愉しんで殺しているように見えるか?」
そんな中、ヴァノが直登に視線を向ける。
ヴァノの右頬には返り血がついている。
――愉しんでいるふうには見えない。かと言って、人を殺さなければならないという状況にありながら、罪悪感や、苦しみを読み取ることはできない。
「ただの作業として殺し続けている気がする」
言えたのは、それだけだった。
「それも……そうだな。……俺も、どこかに、本当の感情を、置いてきてしまったのかもしれん」
ヴァノは自嘲しながら言うと、無表情でパニック状態の人々を次々に殺していった。
二人の背後には骸が転がり、平和であったはずのマンションを、地獄に変えてしまった。
その様子を冷めた目で眺める直登。
――皆、自分が殺されるかもしれないということなど知らずに、普通に暮らしていた。人は誰しも死に向かっているというのに、それを重く捉えなかった。突然起こった殺戮に、対処できる者など、一人もいなかった。
このマンションに住んでいる標的以外の全員を殺し、数多くの断末魔を聞いたヴァノだが、表情ひとつ変えずに、返り血を浴び続けた。
その様子を見ていることしかできない直登は、鞄だけは手離すまいと、ぎゅっと取っ手をつかんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!