第四章 キャリアウーマン

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第四章 キャリアウーマン

 それから一週間後、ヴァノは直登に次の標的が決まったことを伝えた。  決行日を告げると、直登はうなずいて眠りについた。  翌日の夜、ヴァノは武装し、直登はいつも通りの恰好で、標的が住むマンションへ。  建物を見るなり、ぽかんとする直登。 「こういうところには、いろいろな人が住んでいる」  雑とも思える説明をして、直登に鞄を預け、中に入っていく。  直登は取っ手を持つと、慌てて追い駆けた。  ヴァノは通りがかった人を手当たり次第、斬りつけ始めた。  皆最初に殺された人の状態を見ているからか、必死に命乞いをしてきた。  ヴァノはそのどれも承諾せず、一思いに殺し続けた。  目的の部屋に向かうまで誰であろうと殺していく、ヴァノの背中を見ながら、直登は思う。  ――人を殺すことに慣れている気がした。人の剥き出しの感情を目にしながらも、動じない。まるで、自分の姿を見られたが故の、口封じをしているように思えた。 「なあ、(たの)しんで殺しているように見えるか?」  そんな中、ヴァノが直登に視線を向ける。  ヴァノの右頬には返り血がついている。  ――愉しんでいるふうには見えない。かと言って、人を殺さなければならないという状況にありながら、罪悪感や、苦しみを読み取ることはできない。 「ただの作業として殺し続けている気がする」  言えたのは、それだけだった。 「それも……そうだな。……俺も、どこかに、本当の感情を、置いてきてしまったのかもしれん」  ヴァノは自嘲しながら言うと、無表情でパニック状態の人々を次々に殺していった。  二人の背後には骸が転がり、平和であったはずのマンションを、地獄に変えてしまった。  その様子を冷めた目で眺める直登。  ――皆、自分が殺されるかもしれないということなど知らずに、普通に暮らしていた。人は誰しも死に向かっているというのに、それを重く捉えなかった。突然起こった殺戮(さつりく)に、対処できる者など、一人もいなかった。  このマンションに住んでいる標的以外の全員を殺し、数多くの断末魔を聞いたヴァノだが、表情ひとつ変えずに、返り血を浴び続けた。  その様子を見ていることしかできない直登は、鞄だけは手離すまいと、ぎゅっと取っ手をつかんでいた。
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