四重星トラペジウム

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四重星トラペジウム

 公園で運命的な出会いをした私たちは直ぐに親密になった。  お互いの欠点やコンプレックスを補い合ったり相談したりできる、最高の関係だったと私は思った。  出会ってから一か月。毎週日曜日のファミレス会議が定番になっていた。  季節外れの海に行った。星を見に学校をサボって泊りがけでキャンプをした。森が綺麗なペンションにも泊まった。  とても一か月とは思えない濃密な時を、私たちは過ごした。  今になって、思えば――終わりの時が近い事を知っていたみたいだった。 「次はどこ行こっか?」  一番お姉さんの恋々(レコ)がドリンクを飲みながら言った。レモンティーだった。 「そうね……奏々(ソウカ)はどこがいい?」  口調だけお姉さんが残った、一番年下の私が言った。恋々と同じ紅茶をすする。 「僕?僕は……そう、だな。次は、家でみんなでゆっくり、映画でも観たいな」  笑おうとする顔を動かさないようにと、変に力む癖のある奏々が頬を緩めて言った。彼はコーヒーが好きだった。 「家!ねね、そしたらさ、もうすぐハロウィンだし、皆で集まってパーティしない?あの公園集合でさ」  一番元気のいい音々が今にも歌いだしそうな勢いで言った。昔から好きなオレンジジュースをじゅずず、と吸った。 「パーティ……いいわね。そうしましょうか?」 「そうだね、たまにはインドアで!」 「楽しそうだね、パーティ。そしたら、僕の家でどう?」  わんやわんやとしながら、次々に予定が立っていく。  四人でしたい事、いくらでもあった。箇条書きにしたこれからの予定表は、×ぬまでにやる事リストに他ならなかったのに――。  それを知る術など、この時の私たちにはない。 「昨日テレビで見たんだけどさー」  物足りなそうな音々は、吸い終わったジュースのストローを鼻の下で支えていた。 「バナナってあるでしょ?あれ、ジャイ……なんとかっていう種類のクローンなんだってー」  映画みたい、と笑った彼女は、ストローが床に落ちてしまって、拾うのに四苦八苦している。 「ジャイアントキャベンディッシュね。ソメイヨシノも接ぎ木で増えているけれど、確かにクローン、コピーみたいなものだね」  本の世界に生きる奏々が語ると、テーブルの下から「おー」と聞こえた。 「なんの番組見たらそんなのやってるの?」 「くいずー」 「くいずかー」  笑い合う三人を見ながら、私は思った。  クローンなんて、私の力みたいだ。思い出から大切な人の幻を作れる。私が見ている世界の人の幻なんだから、私からしたらクローンのようなもの。  何となく、嫌な感じがした。 「それでさー」  話を続ける音々の声が遠のいた。意識が、自分の身体から離れていくみたいな浮遊感があった。  早くそれを拭い去りたくて――。  飲みかけの紅茶を、飲み干した。
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