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あの気持ちに触れればほら甦る
一人生きてしまった私は、幻影を作り出して、あの日と同じ状況を再現した。
指定時間は七時四十五分。電車の時間に合わせた。そのままお泊り会をするつもりで夜からのハロウィンパーティー。場所は奏々の家、はじめて会ったあの公園で待ち合わせ。
あの日私は五分遅刻した。五分くらいなら遅刻にもならないと、音々が待ち合わせに遅れたらいつもそう言ってきた私は五分前行動が常だった。だからちょっとした罪を犯したような気持ちで公園に行って――。
その光景を、目にした。
思い出したくない。
けれど、覚えていないと、幻影は作れない。
楽しい思い出で着飾った幻影を待たせないように、あの日よりも幾分か早く着いた。
「何……これ」
公園は、真夜中だった。
腕時計を見る。七時三十五分。十分前だ。
公園を覆い隠すように黒い闇が広がり、中に入るとまるで真夜中のようだった。
そして――。
「僕ら今闇の中、暗い夜の思い出の中。さあさ始めよう真夜中のパレード!」
公園の奥の方から、聞きなれた彼の声が聞こえた。
恐る恐る足を進めた私の目に飛び込んできたのは、とても現実には思えない光景だった。
「……きれい」
そう呟いた私は頬に伝うものを感じた。
まるで誰かを――私を待っているかのように踊り、歌う三人の姿が見えた。
髑髏の馬車に揺れる音符、真夜中から動かない時間。
きっと、幻影の皆が力を使っているんだと思った。
奏々の力なら、物語の空想を現実に出来る。
でも、なんで?
私には、こんな思い出は、ないのに。
そう思っていると、肩を叩かれた。
誰、と言いながら振り返ると、そこには――。
「やっと来たわね」
私が、いた。どこか、生気を感じない目をして。
「な、なんで、私が――」
「思い出して?あなたが何なのか」
「えっ?」
私は、私の頬に、そっと触れた。
すぐに離したその手には、べっとりと赤い血が、ついていて――。
「あっ……」
「そう。そうよ。思い出して」
「あっ、ああ……っ!!」
皆は×んで、私が、わた、わたし、私が――。
×、って、何だ?
「逃げちゃダメ。思い出すの。あなたも死んだのよ。あの日」
「――!」
死……死、ああ、そうか。
そういう、事だったんだ。
気が付けば踊りを止めて、音々が、恋々が、奏々が、そして、星々が、周りにいた。
「もう、いいんだよ。星々ちゃん」
「僕たちが死んだのは――君が死んだのは、君のせいじゃない」
「そうだよ、星々。だから、もう」
「そう。もう、終わりにしよう」
私は、死んでいた。
それよりも、皆が、私が遅刻したせいで私ともども事故に巻き込まれて死んだ。それが受け入れられなくて、死の記憶を落としてしまった。
それを思い出さないと、皆を、死に際の無意識の私が作り出した幻想に、閉じ込めてしまう事になる。
クローンに閉じ込めてしまう事に。
ああ、でも。
これでよかった。
クローンの私もどこかで思い出していて、思い出した自分をこの私にけしかけた。そういう事だろう。
「皆……ありがとう」
そっ、と伝った涙が、真夜中のパレードが開かれた公園に落ちる前に――。
奇跡で繋がれた四人の幻は、人知れず消えていた。
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