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思い出光って箒星
睡蓮花音々。画家が生涯をかけて描き続けた花の名前を歌う、彼女との思い出は楽しいものばかりだった。
私は音々とは幼馴染だ。歌うのが大好きな音々がどこかれ構わず歌っては、「元気のいいお姫様」と呼ばれていたころからの仲良し。
人との距離感を間違えては友達が離れていく私にしては珍しく、お互い十七歳になるまでずっと一緒だ。高校も、思い出も。
音々は兎に角歌うのが大好きで、小学校低学年の時には授業中に歌いだしたりもした。はじめこそ通信簿には「元気があってよろしい」の丸が付いたが何年かすれば「協調性がない」に変わる。
彼女が幼い頃に持っていた歌への純粋さは、眠りに落ちる睡蓮のように心の中に沈み、息苦しさに変わった。
「ねぇ、私、歌えなくなっちゃった」
「えっ」
彼女は睡蓮の花のような綺麗な黄色の差す白髪をポニーテールに纏めながら、朝の通学路で打ち明けた。
音々にとって歌とは生きる事そのものだ。歌えなくなったら、彼女はどうなるのだろうと思ったが――。
「その代わりね、新しい物を見つけたの。見て」
音々が差し出したのは、緑色で、三十センチ程度の長さの筒だった。万華鏡?と聞くと、花は咲かないけど、文字が咲くよと言いだした。
いよいよ歌にかけては変人を地で行く音々も本格的におかしくなったのかと思ったが、そうではない事を、私は知っていた。
――私も、似たようなものだから。
「誰かの落とし物みたいなの。探すの手伝ってくれる?」
「いいけど、アテ、あるの?」
「ない!ないけど、運命、みたいな?きっとすぐ会えると思う!」
「はぁ……運命?」
「そ。私たちが出会ったみたいに、この筒の持ち主と出会うのも、運命」
私たちの共通点と言えば、そのヘンテコな名前と、それから――。
そんな二人が出会って、仲良くなって。それは偶然と言うには出来すぎていているような縁だった。
けれど、もし、もしこの筒の主との出会いが私たちにとって――音々にとってなんであるかと聞かれたら、私はどう答えるだろう?
結局私は、後になって私たちみんなの奇妙な繋がりを、運命で着飾った。けれど今思えば、濃密な×の臭いが纏わりついた残酷極まりない出会いに過ぎなかったんだ。
「ねぇ、音々」
「ん?何?」
「もしさ、――」
私はその時なんて言って。
彼女がそれにどう答えたのか。
私にはもう、思い出せなかった。
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