君との距離感を測る双眼鏡

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君との距離感を測る双眼鏡

「ごめん。ちょっとキツイかも」 「あー……そういうつもりじゃ、なかったんだ……」 「え?どういう事?」 「――と友達になれて良かった!」  雪花庭星々(つきなしていセイラ)。人との距離感を測るのが苦手な彼女にとって、思い出は二つしかなかった。  形に出来る思い出と、そうでない思い出。  彼女は人と仲良くなりたいがために親しくしすぎてしまい、それが転じて「空気が読めない」「押しが強い」「自己中」などとレッテルを貼られて、学校で孤立していった。  彼女なりに第一印象でよく思ってもらおうと服に気を遣った結果奇抜なファッションに行きついたり、音々(ネオン)の母親に「音々のお姉さんみたいね」と言われた事から「お姉さんキャラ」なら好かれると思って、口調を変えたりしてみた。  結果的には、全てが裏目に出て、友達と呼べるような関係でいられたのは睡蓮花(すいれんばな)音々ただ一人だった。  その友情も、お互いの珍しい名前へのコンプレックスや、があったから続いたんだと思うと、時折星々は暗い気持ちになってしまいそうで――それが怖くて、「運命」や「偶然」なんて言葉を多用するようになった。 「あ、星々ちゃん、見て!あそこ!」 「ええっ?」  星々も音々も同じ県立の高校に通っていて、来ているのは制服だった。残暑の残る九月の平日、それも昼下がりであるという点を除けば普通そのものに見える。 「ね、直感でも大丈夫だったでしょ?」 「まあ、今回は……私の負けかな」  にしし、っと笑う音々の手には、緑の筒――奏々(ソウカ)の落とし物が。  二人がやってきた、市内の小さな公園には、同年代の男女二人が立っていた。  少年――奏々の手には、歪なハートの形の小物が。  少女――恋々(レコ)の手には、尻尾がぐにゃりと曲がった音符型の小物が。  それぞれ、奏々は恋々の、恋々は音々の落とした大事なものを持っていた。 「あのっ。はじめまして!私の事、分かりますか?」  はじめましてなのに、分かるものかと思った。 「分かります!私、あなたの気持ちがあったからここに来れたんです」  会った事が無いのに、どうして集まれたのか。 「は、はじめまして。僕も、君の気持ちがあったから、身体が動いた」  言葉を交わすのは初めてでも、星々以外の三人は想いで通じ合っていた。  睡蓮花音々は世界の音をぐにゃり曲った音符の形にできた。  小春日和恋々は誰かの気持ちを歪なハートの形にできた。  御伽語(おとぎがたり)奏々は本の中の空想を文字から幻影にできた。  そして、雪花庭星々は、大切な思い出を、幻影にできた。  少女と少年、四人が作る形や幻に触れると、その想いを感じる事ができた。 「みんな、よろしくね!」  これは、そんなを――特別な力を持った四人の思い出の話だ。
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