結んで開いて綻んで

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大和は教室で静かに読書していた。 昨日あれだけ律に言いたい放題言ってしまったのもあり、何となく居心地が悪かったのだ。 顔を上げず読書をしていれば時間も過ぎるだろう。  そう思っていたのだが、読んでいるのに内容が頭に入ってこない。 そんなところに声をかけられたのだから驚くのも無理はなかった。 「おい」 「え? あ、あ、律くん!?」 顔を上げると律がいて大和のことを見下ろしていた。 慌てて席を立ち、もう一度頭を下げる。 「律くん、本当に昨日はごめん!」 「もうそれはいいよ。 ・・・それより昨日、父さんと話してみたんだ」 「え?」 律は気まずそうに顔をそらしてながら言う。 「あのテニススクールに入る時、親に凄く反対されたんだ。 『無意味な習い事はやらせない。 時間の無駄だ』とか言われて。 何度も何度も頼み込んだけど駄目だった。 金と時間の無駄ってさ」 「そんな・・・」 「でも俺はどうしてもやりたかったから、『絶対にスクールでエースを取るから』っていう約束をしたんだ。 そしたら承諾してくれた。 だけど、一度はエースになったけど春にアイツがやってきた」 「それで言われたの? 『エースになれないなら、テニスを辞めろ』って」 その言葉に律は頷く。 「そんな! 無意味な習い事なんて、一つもないじゃないか!」 「でもそういう決まりだったから」 「でも律くんは辞めたくなかったんでしょ? だからあの時、一人で泣いていたんだよね?」 「・・・」 律は気まずそうな顔をして大和に向き直る。 「だから昨日、父さんと話してみたんだよ。 『エースの座を取られたとしても、まだ続けたい』って。 俺の本当の気持ちをぶつけてみた」 「ッ、それでどうだったの!?」 「最初は予想通り駄目だったよ。 だけど懸命に頼み込んだら『そこまでやりたいと思うなら続けなさい』って言われた」 「本当に!? 律くん、テニスを続けられるの!?」 大和は自分のことのように喜んでいた。 「あぁ。 昨日、意気地のない俺をガツンと叱ってくれた誰かさんのおかげでな。 周りに流されず、自分の意見を貫き通すことができた」 「よかったね! 律くん!」 「・・・あとさ」 「ん?」 ひと呼吸おいて律は言った。 「俺のこと“律”でいいよ。 俺もお前のこと“大和”って呼ぶからさ」 「・・・え、本当にいいの?」  最初は耳を疑った。 だけど律は優しく微笑んで頷く。 「俺たちの輪へ、戻ってきたら?」 律はそう言うと双子を呼び付けた。 貴人と博人は終始大和たちのやり取りを見ていたのか、突然呼ばれたことにあまり驚いていない。  待ってましたとばかりに嬉しそうに寄ってくることを見ると、もしかしたら予め三人の中で何か話があったのかもしれない。 「律! お前、久しぶりに笑ったじゃんかよー!」 「大和もおかえり」 貴人と博人は笑顔で迎えてくれた。 大和も笑顔で返す。 「うん、ありがとう。 そしてただいま!」                             ‐END-
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