見知らぬあなたの幸せを

１

　本社会議室で行われた研修会が終わり、駅前のホテルに移動する。打ち上げが行われるホテルはなかなかハイクラスだ。役員たちはそのままこのホテルに宿泊するが、私たち平社員は宿泊代だけ渡されて自分たちでホテルを予約する。

　ホテル選びと予約は面倒ではあるが、場所を選べば研修を終えた翌朝にホテルの朝食会場で他の社員と顔を合わせないで済むので、社員からは歓迎されているシステムだった。

　ホテルでの打ち上げが終わると、思い思いのグループに分かれて二次会へ行く。私はそそくさと帰り支度を始めて駅へ向かおうとする。

「あれ、咲島(さきしま)さんは行かないの？」
　本社勤務の同期に声をかけられる。
「あー、私は北浜駅にホテルとったから」
「北浜？　遠くない？　何でまた」
「ちょっとね」

　これで私が二十代の若い社員だと、実は本社の誰かと付き合っていてこの後会うだの、遠距離恋愛の彼氏がいるだの詮索されるが、四十代はお気楽だ。
「ふーん、気をつけてね」
　同期はあっさりと私を解放し、私は大阪環状線を目指した。