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 翌朝、会社の人と顔を合わせる心配がまったくないホテルのビュッフェで朝食を済ませると、私は早めにチェックアウトした。一泊分の荷物は軽いが、研修会で持ち帰らされた資料が重い。  駅前のホテルに泊まったにもかかわらず、私は駅とは反対方向へ歩き出した。目的地はすぐに見つかると思っていたのに、私は道修町通をうろうろと歩いた。建物と建物の間に挟まれた細い路地の向こうに目的地があると知ったときには驚いた。気づかずに一度前を通り過ぎていたからだ。  少彦名(すくなひこな)神社は、昨日訪れた大阪天満宮に比べるととても小さな神社だった。まだ早い時間ということもあり、参拝客はそれほど多くない。  拝殿には鮮やかな黄色の虎が祀られている。少彦名神が医療の神様だと聞いてここにやってきたが、この虎が(やまい)を退治してくれるのだろうか。  昨日のような制限時間はないので、私は厳かな気持ちで虎と向き合った。五百円硬貨の重い音が響く。二礼二拍手の後は静かに手を合わせ、じっと願いを伝えた。
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