1/3
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

 賽銭箱に五百円硬貨を入れると、「どじゃりん」と重い音が響いた。  二礼二拍手。手を合わせて神様にお願いをして一礼。顔を上げてもう一度、願いを叶えてくださいと念を押すように本殿の奥に目をやる。  願い事を終えて本殿にくるりと背を向けた私は、歩く速度の上限で歩き始めた。これ以上速く歩いたら走っていると思われるギリギリの速度だ。本殿からまっすぐ進むとすぐに表大門から出られるのはありがたい。  大阪天満宮の境内から出ると、さらに速度を上げる。腕時計に目をやる。ここから南森町駅までは徒歩五分。駅前のコンビニでパンを買い、ホームの隅で素早く食べる。JR東西線に乗り、東梅田駅まで三分。ここから本社までが十分歩く。  ビルに到着した時刻は十二時五十七分。エレベーター前に営業部の社員が固まっているのを見つけ、私は安堵した。 「お疲れ様です」  スーツからラーメンの匂いがする集団に挨拶する。エレベーターに乗り込み、何事もなかったかのように研修会場に戻る。ほんの二十分前まで大阪天満宮にいたなんて嘘みたいだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!