疎外感

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 あんな台詞は、お妾さんほどの色気があってこそだろうと、思い起こす。  新しい浴衣とタオルを手にして、私は花街の禿(かむろ)のようにお妾さんの傍で控えていた。  子供心にもそういうものだと心得ていたし、羞恥などまるで抱いていなかった。 『お背中を流しましょうか?』でないところがミソだと、お妾さんは人差し指を口に添えて、はにかんだ。 『ふふっ、私が旦那様のことを心底好いてるって、知って貰わないと始まらないもの』 お妾さんは言葉一つをとっても、他の女との差別化を図っていたのだ。 『イイ女かどうかなんて、見てくれではないのよ?』 器量良しのお妾さんが言っても、そう説得力があるものではないように思えた。 『多くは勘違いしているようだけれど、着飾るのは女の性、男はそんなものに惚れたりしないわ。愛でることはあってもね。少なくとも私の旦那様はそう』 でも、ご主人は着飾る為にお妾さんに着道楽をさせている。 『これは男の顕示欲。だから私は爪の先まで誇れるものにしなくてはならないの。旦那様は、望んだ分だけ女を幸せにできる一流の男だと、私はこの身一つで証明しているの』 それが誇りであるかのようにお妾さんは柔らかく微笑んでいた。 「私は間違えてしまった……」 これまで着飾ることなんて無かったものだから、独りよがりな想いをぶつけてしまった。 「女は度胸!」 清水の舞台から飛び降りる心地で、私はシュルリと帯を解いた。
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