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安心感
――甘えられるように?
くつくつと炊き合わせの煮物の音を聞きながら、善次郎さんの言葉が私の心の奥で木霊する。あれから数日経つが、相変わらず私の理解は追い付かない。
何度、彼の言葉を思い起こしても、はっきりと何かが分かったわけでも、変わったわけでもないというのに、心の奥がキュッと握り込まれた心地で、私は何度も胸元を押さえていた。
「ユキちゃん、今日のご飯なぁに?」
いつの間に入って来たのか、奈津が私の袖を引いて、ハッとする。
(いけない、いけない。また、惚けていた)
「いらっしゃい。煮物とねぇ、イワシの煮付け、それに団子汁だよ」
「椎茸もあるの?」
スンスンと鼻を鳴らすのは宗太だ。
宗太も奈津も、干し椎茸を甘めに煮浸したものが大好物だった。
「うん、後でお味見させてあげるね。此処は危ないから、二人は食堂でお絵描きでもしてようか?」
私は煮物の火を止めながら、二人を促した。
「お絵描きヤダ。もう、飽きたもん」
先日までの秋晴れの空とは打って変わって、今日は一日中雨でつまらなかったのだろう。
いつもより随分早い時間から二人は此方に顔を覗かせてきた。
うちと善次郎さんの家は垣根を挟む形で敷地が繋がっている。そこに子供ならば潜り抜けられる隙間があるのだ。二人だけで路に出ない分、よほど安心だと黙認しているのだが、雨降りだというのに、傘も差さずにそこから入り込んできたに違いない。少しばかり洋服が湿っていた。
「二人とも寒くない?」
秋の長雨は、降る毎に寒さを運んでくるようになる。季節の移り変わりは、流行り病も運んでくるから気を付けてあげねばならない。
「寒くないよ。熱い」
そう告げる宗太の頬は、本当にほんのり赤い。
「走って来たの?」
訝しんで額に手をかざす。
不味い、本当に熱い。
「宗ちゃん、大変、熱があるよ。なっちゃん、ご隠居さんを呼んできてくれる?」
ご隠居さんは元医師だ。彼に診て貰った方が良いだろう。
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