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求めにどう応えていいのか分からない。
ついには、彼の目を受け止めきれない臆病さに、私は箸を置いて俯いてしまった。
善次郎さんの大きな手が伸びてきて、まるで宗太や奈津にするように私の頭を優しく撫でた。
「大丈夫、大丈夫です」
降り注ぐような優しい声音に顔を上げた。
駄目だ……。
あんまりに優しい顔をされているので、何だが泣きそうになってしまい、涙腺を維持することに必死になる。
あの大泣きしてしまった日から、この人の前だと、私の心はグダグダになってしまうのだ。
「あなたのことを受け止めると決めたんですよ、俺は――と、言っても、元来、せっかちなんですけど、雪乃さん相手には待つことを覚悟しています」
「……」
(嗚呼、もう本当に、なんて、なんて人なんだろう……)
彼は今の私が一番欲しい言葉をくれた。
追い詰めないで、逃げ道を残してくれた。
「伊藤の時みたいに俺を切れないのは何故ですか?宗太や奈津がいるせいですか?」
それは違う。
はっきりと、違うことだけは分かっていた。
「違います」
たったそれだけの一言なのに、善次郎さんは凄く、それは甚く、嬉しそうに笑ったのだ。
「それで十分です」
「今はね」と、悪戯に微笑んで、団子汁を啜った。
「ははっ、冷めてしまいますよ」
彼は箸先を私の膳に向けて促した。
「善次郎さん……」
「はい?」
「善次郎さんと御飯がいただけて嬉しいです」
それだけ言うと、私は掻き込むようにご飯を食べた。
もう、私は彼の顔を見ることなんてできそうにない。
彼もまた、私と同じくらいに顔を真っ赤にさせていることなんて、知りもしなかった。
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