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家賃収入に加え、食堂経営の収支報告を決まって月末に提出する。
「凄いねぇ。売り上げがうなぎ上りだ。一体どんなからくりなの?」
前年度の書類と比較しながらご隠居さんは目を瞬いた。
「健全な奉仕活動の精神ですかね。細やかな気配り一つで、売り上げに自ずと返ってくるものです」
『ひじり荘』を大切に、丁寧に管理すれば、住み心地の良い空気が流れる。
集団就職により需要はあるのだから、完全に市場は売り手にある。
築年数も浅いのだから、思い切って賃貸価格を相場よりも引き上げた。
その分、食堂の朝食料金は原価格にまで抑えてある。
朝食を利用する人は夕食も利用する傾向にあるから十分に利益は出た。
それに住人同士が気心知れば、諍いも少なく円満な人間関係が築けるものだ。『同じ釜の飯を食えばもう家族同然』の原理。
心地よい住居には自ずと快い人が寄り付くもので、陽の気が巡った。
家賃に見合う満足度があれば、賃貸料を渋られることは無かった。
「ユキちゃん、目の下に隈が出来てるよ。お休みもちゃんと取らないと」
「お休み……」
年中無休で腹は減るものだ。人を雇う余裕はまだ持てない。
それに好景気が続けば、金利は上がってくるだろう。
早く借り入れ分を返済してしまいたい。
「僕はね、ユキちゃんの采配だけで賄える程度の収入で満足だよ。気張り過ぎはよくない。人生は長いんだ、世情に流されて走ってばかりいる必要は無いんだよ」
深呼吸、深呼吸と言って、ご隠居さんは私の心の煤を払うように笑った。
「はい」
流石は年の功、ご隠居さんは私の性分を良く分かっている。
数字に囚われ、守銭奴に走る悪癖。
まだ頑張れる、まだ頑張れると、何かに追われるように、息の止まるその時までひた走ろうとするド根性精神。
「食堂経営は常連さんだけで、お断りをすることにします」
その分、今の手の内にあるものを慈しもうと、私は少し肩の力を抜いた。
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