安心感

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 陽だまりのような存在だった葵を失い、この家は灯を失った。 けれど、雪乃さんという存在によって、真っ先に灯を取り戻したのは子供たちだった。 喜ばしい筈のことなのに、俺はそれを喜ぶどころか、やるせなさに襲われる。 葵が死んだというのにどうして笑っていられるのか!? 悔しいよりも、悲しいよりも、腹立たしかった。 挙句、雪乃さんに明後日な八つ当たりをして、彼女と子供たちを引き離そうとまでしていた。 『施しでも、なんでもいいじゃないですか!?』 彼女は施しであろうが受けたいと望んだ頃があったに違いない。 そんな厚かましいことは出来ないとする俺に対して、彼女は諭すように冷静に告げた。 『甘えることは子供の特権です。子供の特権を奪わないで上げてください』 彼女にはおそらく与えられなかった特権だ。 『夕餉の灯りが、この子達を誘い込むんです』 きっと、憧憬を抱いて家々の夕餉の灯りを見ていたのだろう。 彼女の過去を知った今、その一つ一つの言葉の裏に、彼女の孤独が潜んでいるように思われた。  だからこそ、彼女は子供の気持ちを汲み取り、与えどころで手を伸ばせるのだろう。
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