安心感

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 きゃは、きゃはと、燥ぐ子供たちと一緒になって、ゴロゴロと転がって来た雪乃さんと目が合った。 「くくくっ、奈津も宗太も雪乃さんに懐く筈ですね。いつもこんな遊びを?」 俺が声をかけると、彼女は悲鳴を上げんばかりに驚いた。 「い、いつからそこに?ま、まだお昼には早いですよね!?」 逃げ惑うように身を起して、時計を振り仰ぐ。 「嗚呼、その時計、故障気味で時々止まってしまうんです」 彼女は、穴に入りたいとばかりに頭を抱え込んだ。 「いつもは……もう少し……まともなんです」 消え入りそうな声で弁明する姿が可愛らしく、俺はまた緩みそうになる口元を抑えた。 「うん!ユキちゃんは面白いよ!」 奈津が彼女に追い打ちを掛けた。 「うん!面白い!」 雪乃さんの足に纏わり付いて、得意げに宗太は断言する。 「くっくく、そうだな。いつも楽しそうなお前たちの声が工房まで届いてくるしな」 雪乃さんは口をはくはくと戦慄かせ、やがて諦めたように大きく脱力した。 「では……お昼にしましょうか」 「「うんっ!!!」」 我先にと洗面所に向かう奈津と宗太に『順番だからね!』と、念を押して声を張る。 余程気恥ずかしいのか、俺とは一切、目を合わせようとはしなかった。 「雪乃さん、昼は何ですか?実は楽しみにしていました」 料理の話を振れば、本領を発揮するところなのか、少しばかり目を輝かせて、こちらに顔を向けた。 「カレーうどんです」 テレビCMでお馴染みの『一皿二銭』と謳われているカレー粉を、うどんの出汁で溶いて作ったのだと、少しばかり得意げに話す。 「油揚げとネギが入った和と洋の合わせ技です。ほんの少し、お味噌を隠し味に使っています」 「へぇ、うどんにカレーですか。作るところを見ていてもいいですか?」 少しばかり、彼女は悪戯に微笑んだ。 「はい、後はうどんを茹でるだけなんですが、見ているなんて言わずに、よろしければお手伝いをしてくださいね」 意趣返しだと言わんばかりに口角を上げている。 「いいですよ。味見の方は任せてください」 「ふふ、残念でしたね。それはもうセキさんが済ませてくれました。つまみ食いは許しませんよ」 少しずつでもいい。 彼女と俺の距離が縮まっていると感じているのが、俺だけでないことを願っていた。
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