安心感

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 善次郎さんを好きになり過ぎた。 抱いてしまった身の程知らずの独占欲。 ……恥ずかしい。 「――すいません。私は、あなたの元で従事することは出来ません」 善次郎さんの目元が悲しみに歪んだ。 「俺では役不足ですか?」 私は首を横に振る。 「信頼できます。これまでお会いしてきた誰よりも、私を買ってくださいました。あなたを支えてひた走ることは、これまでのどんな仕事よりもやりがいに満ちた仕事だと思います」 「それでも?それでも俺の手を取ってはいただけない?」 もどかし気に問い詰めてくる彼に、私の心は戦慄いた。 込み上げてくるものを必死で押し込める。 「善次郎さんと一緒に歩んでいくには、私は善次郎さんを慕い過ぎています。献身的に仕えるにはきっと障りが出てきます。身の程知らずにも……私は、あなたに邪な心を抱いてしまいました」 軽蔑……されてしまうのかもしれないと、私は彼の顔を見ることが出来ずに、この場を辞そうと逃げるように腰を上げていた。 「ま、待ってください!雪乃さん」 善次郎さんに退路を塞がれ、半ば体当たりをする形で彼の懐に飛び込んでしまう。 「す、すいま……」 後に続く言葉は途切れてしまった。善次郎さんが私を逃がすまいとするせいか、痛いほどに抱き竦めてきたからだ。 互いの鼓動の音が聞こえる距離で、善次郎さんが大きく息を吐くものだから、私は彼の腕の中にあることを意識しすぎて、眩暈を覚えてしまいそうだった。 「は、放してください……」 倒れそうですと、訴えるも彼の腕は緩まるどころか更に強まった。 「放しませんよ。そんなことを言われて、手放せるわけがない」 怒ったように告げられ、首を竦めてしまう。 「だって、あの……気持ちに蓋をしようにも、どうにも……」 上手くいかないのだ。 想像でさえ嫉妬に泣いてしまいそうだというのに、目の当たりにして仕事になる筈が無い。
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