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日付が変わろうとしていた。
流石にもう訪ねられる時間では無いな……。
灯の消えた『ひじり荘』の方を見やって、朝には食堂で会えると自分を納得させた。
「……疲れたな。俺もそろそろ帰るか」
工房を片付け、灯を落とす。
寒空の下、煌々と鮮明に輝くオリオン座に気を取られ、足元で何かを引っ掛けてしまう。
「ん?」
カサリと乾いた音に、何やら紙袋であるようだと、暗がりに目を細めて、それを拾い上げた。
「何だ?」
手提げの紙袋の中には、何やら柔らかいものが包み紙にくるまれていた。
(……雪乃さんか?)
庭を挟んだ向いの家路を急いだ。
カラリと引き戸を開けて、玄関口で再び紙袋に手を入れた。
気が急いたまま、上り口で確認する。
包みの一つ一つにメッセージが添えてあった。
『善次郎さんへ、メリークリスマス』
嗚呼、そうか。今日がそのクリスマスだったか。
街で耳慣れて随分なクリスマスソングやディスプレイに、本番が今日であることを忘れていた。
――というより、まるで意識していなかった。
俺にとってはまるで余所事だったそれに、降って湧いたように仲間入りを果たしてしまう。
サンタクロースを試みてくれる心当たりは、やはり一人しかいない。
「雪乃さん……声を掛けて下さいよ」
彼女のことだ。
仕事の邪魔をしてはいけないと、遠慮したのだろうが、サプライズの嬉しさよりも、会いたかったとうなだれる。
しかし、包みから手編みの手袋が出て来て、思わず顔が綻んだ。
「くっふふ、ようやく謎が解けた」
俺の手をやたらとじっと見つめていた筈だ。
てっきり手を繋ぎたいのかと手を差し出せば、甚く嬉しそうに微笑んで、彼女は掌を合わせてきたのだ。
『善次郎さんの手は大きいですね。それに指先が長い』
俺の指の一つ一つを慈しむかのようにじっくりと触れてくるから、何だか妙な気になってしまって、襲い込みそうになっていたなんて知ったら、彼女は何とするだろうか。
俺の手にピッタリ填まるそれはくすぐったいほどにフカフカで温かかった。
「メリークリスマス、雪乃さん。ありがとうございます」
一針一針に込められた想いが愛おしいくてならなかった。
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