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紗代さんは少しバツが悪そうに目を逸らした。
「――です」
え?
「嫌い何て嘘です。ごめんなさい」
言うが早いか、紗代さんは頭を下げた。
くっ……!
とんだツンデレさんだ。可愛らしすぎて手に余る。
「いいなぁ。雪乃さんは、素敵な恋をされているんですね」
紗代さんは口を尖らせた。
恋――あやふやで、不確か。何より信用ならない感情。
恋に対する私の見解はそれだ。
なのに不思議と、善次郎さんにだけはそれが当て嵌まらなかった。
何故なのか?
嗚呼、何となくあの時だと思い至った。
「雪乃さん?」
「あ、いえ……」
何でも無いと首を横に振る。
「紗代さんの言われる通りですね。大切にします」
胸に秘めるように手を添えた。
紗代さんは納得したように頷いたと思えば、すぐさま挑発するように目を煌めかせた。
「なら、失恋しない為にもしっかりめかし込みましょう。着物は大和撫子最大の武器なんですからね!」
「はい、そうですね。しっかりあやかりたいと思います」
紗代さんを見習って、私もめいいっぱいお洒落して、善次郎さんの前に立ちたくなった。
年末は、お目当ての人を落とし込むために出陣だと、私たちは華やいだ声を上げていた。
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