疎外感

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 奥の襖をそっと開け、奈津と宗太の様子を覗き見る。  二人とも、健やかな寝息を立てて、ぬくとそうなお布団にくるまっていた。  宗太は布団に潜り込むのが大好きで、赤ちゃんの頃は薄い手拭いを被せてやるだけで、どこだろうと安心して眠る癖があり、可笑しいほどに寝つきが良かった。  一方で、奈津はいつの間にか布団から飛び出てしまう。体温が高いのか、大抵は寝汗を掻いてしまうのだ。  額に手を当て様子を窺えば、冷たい私の手が心地よかったのか、奈津はにへらと、口元を緩めた。 『笑うとお母さんにそっくりね』 いつだったか、余所のお母さんにそんな風に言われて、可笑しかったことを思い出した。 まったく血の繋がらない私と奈津を指して、そんな風に言われたのだ。 「ユキちゃんはお母さんじゃないよ」 私の腰にしがみついて、奈津ははにかみながら顔を隠した。 奈津が慕ってくれることが嬉しくもやはり複雑で、やはり切なく思ったものだ。 葵さん――。 神様は命をあるべきところにあるように納めてくれない。 もしも、もしも、挿げ替えることが出来るなら、私はどうしただろうか? そんな莫迦な自問を浮かべてしまった。 頭に過るあの日――(みぞれ)混じりの涙。 「やはり……差し出せただろうね」 今、尚も、その答えはやはり変わらないことに苦笑する。 私の心には夜叉がいる。 葵さんのようにはなれないことは分かっている。 ――ごめんね。 出来もしない莫迦なことを考え、してはならない生を冒涜する選択を口にした。 『――嫌いです』 ええ、紗代さん。 私もですよ。
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