疎外感

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『凄く綺麗ですよ。着物も雪乃さんに着て貰えて、きっと喜んでいます』 紗代さんは私にお墨付きをくれていた。 なのにどうしてこうも(いや)しいのか? 身の丈に合わない、身の程知らずだと、貧しい心に囚われる。 記憶から抹消してしまいたいというのに、頑なに、鮮明に、思い起こすのは、私を厄介払いした者らの苦々しい眼差しだ。 同情も、施しも与えられることなく、煩わしいとばかりに見向きもされず去って行く背を、取るに足らない子供だった私の目は、ただ見納めのように見送っていた。 追ってどうなるものでもないと、心はとっくに諦めていた。 だって、厄介者なのは本当だ。 だって、何もできないごく潰しだ。 仕方がないと、いつだってそう納得させてきた。 人の手を取ることは、傷付くことだと思ってきた。 代わりに握り込んだ拳が自分を誇示する唯一の鎧となった。 我慢を重ね、孤独に耐えた習慣はそう簡単に消えてはくれない。 いつだって私を灯りの元から遠ざけ、揺るぎのない安心感を引き合いに出してくる。 『人の好意を無にしている雪乃さんのそういうところ、嫌いです』 下を向いてしまいそうになる気持ちを叱咤する声が届く。 紗代さん、ありがとう。 私もこんな貧しい心根は大嫌いです。 だから抗います。 身の内に巣食う夜叉と闘います。 身の丈に合わないなんて思わない。 胸を張って、善次郎さんをものにしたい。 善次郎さんに見合うのは私だと証明したい。 恋焦がれて慕う(ひと)を待つ顔というのは、きっとこんな可愛げのない顔では無いのだろう。 まるで戦乙女の面構えで、私は善次郎さんの帰りを待っていた。
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