疎外感

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 惚けている場合では無いと、廊下に転がり出た。 何処へ行かれたのだろうと左右に目を彷徨わせるも、彼の姿は既に無い。   「確か『頭を冷やしてくる』って――」 外に出て行ってしまわれたのだろうかと、玄関口を確かめるも、履物は今しがた帰って来たばかりだというように確とあった。 少しばかり乱れていた履物に、彼が急ぎ帰ってきてくれたことがよく分かる。 「善次郎さん……」 こんなところに愛おしさが落ちていた。 好いて貰っているのだと実感したことで、私は少しばかり落ち着きを取り戻せた。 「だったら何処に……」 ふと目に留まった玄関脇の靴棚。 私の編んだ手袋が、挿されなくなって随分になる花瓶の横に据え置かれていた。 「やっぱり、使ってくださっているんだ……」 その時だった。 バシャッと奥の方で水を打つ音がかすかに聞こえた。 風呂場だろうか? 「冷やしてくるって、まさかっ!?」 冬の最中に水浴びでもされているのではと、私は慌てた。 (もう、何をさせてしまっているの……!) 自分を罵りたい気持ちで、私は善次郎さんを止めに走った。
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