23人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ
惚けている場合では無いと、廊下に転がり出た。
何処へ行かれたのだろうと左右に目を彷徨わせるも、彼の姿は既に無い。
「確か『頭を冷やしてくる』って――」
外に出て行ってしまわれたのだろうかと、玄関口を確かめるも、履物は今しがた帰って来たばかりだというように確とあった。
少しばかり乱れていた履物に、彼が急ぎ帰ってきてくれたことがよく分かる。
「善次郎さん……」
こんなところに愛おしさが落ちていた。
好いて貰っているのだと実感したことで、私は少しばかり落ち着きを取り戻せた。
「だったら何処に……」
ふと目に留まった玄関脇の靴棚。
私の編んだ手袋が、挿されなくなって随分になる花瓶の横に据え置かれていた。
「やっぱり、使ってくださっているんだ……」
その時だった。
バシャッと奥の方で水を打つ音がかすかに聞こえた。
風呂場だろうか?
「冷やしてくるって、まさかっ!?」
冬の最中に水浴びでもされているのではと、私は慌てた。
(もう、何をさせてしまっているの……!)
自分を罵りたい気持ちで、私は善次郎さんを止めに走った。
最初のコメントを投稿しよう!