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心底惚れている。
尺度の無いものを相手に正しく伝えることは、ひどく難しい。
腹を括った私は、潔いまでに浴室に踏み込んでいた。
「善次郎さん、湯舟を温めておきましたから湯を使ってくださいませね」
羞恥心を誤魔化すように、早口になってしまう。
ギョッとして固まる彼に対して、私は可愛らし気などおよそ欠片もない、挑むような眼差しを向けていた。
「ゆ、雪乃さん……」
はしたないという自覚は十分過ぎるほどある。
(お願いです。咎めないで……)
私は心許ない長襦袢一枚を素肌に纏っているだけにあった。
ポタポタと髪から雫を垂らす善次郎さんは、まさに水も滴る何とやらで、見惚れてしまいそうだ。
鍛え抜かれた剥きだしの腕に、通りで力強い筈だと納得してしまう。
(くっ……もう、本当にズルいです。ご自分ばかりそんなで、私は一つも鎧なんて持ち合わせてないんですよ?)
逃げ出してしまいたい気持ちを抑え込んで、私は震えてしまう膝を叱咤して立ち竦む。
(何が正解なのか分からない。分からなくて、怖い)
「善次郎さんは、泣き虫で良いって――。受け止めて下さると……言いましたよ」
「……はい」
「それに……」
言葉通りに泣いてしまいそうになって、慌てて下唇を噛んだ。
泣きたくなるほどの勇気に、手が震えていた。
「帰さないって、おっしゃいましたもの」
つい責めてしまうような口調になってしまった。
「……はい」
「漢に二言はない筈なのでは?」
もう限界だと、キュッと目を閉じた。
「ええ。もう、俺のものにします」
泣いたって覆らないと、零した彼の口調は冷ややかであるのに、落とされた唇は酷く熱い。自分がどうなってしまうかなんて、私はもう気にもしていなかった。
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