目の味が知りたい程に好き

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目の味が知りたい程に好き

「ふざけんなよお前!!」 「そんなこと言わないで、今のは貴方の不注意でしょう」 怒鳴り散らす背丈の大きなスーツの男と落ち着いて話そうと罵声を吐かれながらも話し合いをしようとめげない、つなぎを着ている平均身長位の男。 駅のホームでそんな事をしていたら集まる視線はそこ一点。見せ物じゃない!と周りにすら怒鳴るスーツの男は相当怒っているが、私は一部始終を見ていた。所謂歩きスマホをしていたスーツの男がつなぎを着た男にぶつかり、持っていた缶ジュースの液体がスーツにかかったのだ。 スーツの男の言い分はそんなもの混んでる場所で持ち歩くな、しかもお前睨んで舌打ちしやがって。何故謝らないんだ。らしい。 僕はスーツの男が不利な喧嘩だなと思う、まあ俺も舌打ちされたら怖がるかもしれないけど。あの人はむかついて、怒るんだろうな。それか腹の虫の居所が悪くて、怒鳴るチャンスを有効活用しているのかも。私もそれはやってみたい。 いつもあたしはこの見た目のおかげか視線を集めてしまったり何かと面倒なので、外出して視線が他に行ってよかった。もしかして面倒が起きたら待ち合わせに遅れてしまう、それはいけない。今日は特にいけない。だって中原さんとお茶をするのだから。今日が楽しみで仕方なくて、原稿中に別の紙に中原さんを描いてしまった。早く会って動揺してほしいな、俺は"告白"するのだから。 初めて会った時、この人近々首でも吊って死ぬんじゃないかと思うくらい淀んだ目をしていた。なんだか、何もかもどうでも良くて惰性で生きてるが、真面目に人の話を聞いて、作品を見て、考えて文字にしている。でもふっとした時、彼は死にそうだなあと、感じてしまった。 僕は中原さんを気に入っている。文章が好きだ。話し方も聞き方も声も容姿も目の動きも好きだ。漫画家になっていなかったら、ヒットしていなかったら、きっと近付けなかった存在だろうなと思う。私はただの濁っている白い歪んだ人間で、中原さんのような聡明な人に本当は尊敬されるような存在ではないのだ。 だからこそ、運が良かった。 漫画は誰か死なないかなと思って描いた。つらいけど明日も生きようと思ったと感想がよく届いた。とても嬉しかった。人が死んだというのは聞かなかった。安心したし、がっかりした。 中原さんは恐らく他人にそこまで踏み込んだ興味を持たない。しかし初対面のあの感じは、私に興味を持ったんじゃないだろうか。なんて傲慢か? 俺はああいう人を、いや、中原さんを壊せると思う。全世界に発信する場で人々を元気づける言葉の裏に中原さん宛のラブレターを送り続けてもいいし、好きだと漫画で描いてもいい。 死なないでほしい。死んだら燃やさず冷凍して僕の部屋に置いておきたい。犯罪なのかな?でもしたいな。 中原さんの第一印象は、どこか疲れてそうな前髪が長めで平均身長でがっしりしている男性。 私がずっとあの人に喋りかけていたら、どんな顔をするかな?ベッドの上で、やらしいことなんてひとつせず寝かしつけるように、きっと中原さんもよく分からない私の気持ちを聴かせてあげたら、背を向けるだろうか?その背に翼が生えていたら捥いでやるのは俺の役目だ。 中原さんのことで頭が一杯になっていたら、喧嘩していた人達が居なくなっていた。電車が遅れていたから暇潰しに仲裁にでも入ろうかなと思ったのに。 電車はまだ来ない、珍しく待ち合わせに早めに出たのに急がないとならなくなる。 でもきっと、遅刻しても中原さんは怒ったりしないだろうな。怒って欲しいし、その口を針と糸で縫って、そうして糸を抜いて痛みに悶えているところをキスしたい。痛そうなところを柔く噛んであげたい。きっと好きだ。痛がるだろうから、私の方が大きいし、逃してあげないんだ。 恋人になりたいとかじゃあない。ただ中原さんが気に入ってしまった。手に入れたいけど自由でいてほしい。早く壊れてしまわないかな。でもその時は連絡なんて寄越さない人だろうから、壊れないで生きて欲しい。 人を殺したい、そして生きて欲しい。世界のすべてを私は愛している。そして、中原さんが誰と付き合おうが親密になろうが結婚しようが、私が気に入った人だ。あの淀んだ目の味が知りたい。
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